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ラーニングコーナー

2019/06/24

幹細胞におけるCRISPR-Cas9ゲノム編集、および脳オルガノイドの形成

  • 用途別細胞培養

ヒト多能性幹細胞(human pluripotent stem cells: hPSCs)を用いたヒト疾患のモデリングは、CRISPR-Cas9によるゲノム編集と組み合わせることで、病理メカニズムの研究における重要な戦略となってきています。

本ページでは、Dr. Lancasterらの大脳オルガノイド研究の成果(Lancaster et al, Nature 2013)にもとづき、小頭症疾患モデルの作製に成功した研究例をご紹介しています。STEMCELL Technologies社の研究グループは、ArciTect CRISPR-Cas9 systemを使用して、原発性小頭症の発症に関与する遺伝子であるCDK5 regulatory subunit-associated protein 2 (CDK5RAP2) C末端欠失型を有するクローンを作製しました。安定なクローンについて、さらに細胞品質特性(核型、多能性、形態、およびマーカーの発現)の特徴づけを行い、STEMdiff Cerebral Organoid Kit(ST-08570)で大脳オルガノイドへと分化させました。

出典:Leon H. Chew et al., EMBL Organoids 2018

オルガノイド疾患モデル 研究の概要

  • hPSCのゲノム編集、細胞品質チェック、および遺伝子編集済みの安定クローン株作製について、ワークフローを確立しました。
  • CDK5RAP2のトランケーション(切断)は、有糸分裂の際、通常は紡錘体に局在するCDK5RAP2に誤った局在化を引き起こしました。
  • CDK5RAP2がC末端欠失型になっているクローンは、対照群に比べて小さい大脳オルガノイドを生成し、Lancasterら* のデータに類似した神経マーカーの発現上昇と神経前駆細胞マーカーの発現低下がみられました。

* Lancaster MA, Renner M, Martin CA, Wenzel D, Bicknell LS, Hurles ME, Homfray T, Penninger JM, Jackson AP, Knoblich JA. Cerebral organoids model human brain development and microcephaly. Nature. 2013 Sep 19;501(7467):373-9.

実験方法

Organoid1

A)ArciTect CRISPR-Cas9リボ核タンパク質は、CDK5RAP2を標的とするガイドRNAと複合体を作ることにより形成され、血液由来のhPSC株(STiPS-B004)にエレクトロポレーションにより遺伝子導入されました。トランスフェクションした細胞は37℃で3日間、mTeSR1 + CloneR中でインキュベートしました。単一細胞分離後には、細胞を10 cm2ディッシュあたり400個の密度で播種して37℃で3日間、mTeSR1 + CloneR中でインキュベートしました。

培地の全量交換はmTeSR1で行い、細胞をその後さらに5日間インキュベートしました。その後単一クローンを選択し、24ウェルプレートで7日間、mTeSR1中で増殖させました。最初の継代の際には、ゲノムDNAを精製してCDK5RAP2の遺伝子座領域をPCR(polymerase chain reaction)により増幅し、サンガーシークエンシングによりそのPCR産物において遺伝子編集の有無を確認しました。

選択した約24クローンのうち、中途停止コドンを生じるフレームシフト変異をヘテロで有するクローンが2,3個選択されました。CRISPR-Cas9による遺伝子編集の第二段階では、(黒矢印で示されるように)これらのヘテロクローンを使って、CDK5RAP2の両アレルに中途停止コドンを生じる変異を有する複合ヘテロクローンを作製しました。

B) クローンは全て、ReLeSR(ST-05872)を使用してclumps passage(クランプ継代)を行い、、mTeSR1中で増殖させました。クローンはさらに、次のような形質・機能解析により特徴を同定しました;Gバンド法による低解像度での核型の確認(p5で実施)、hPSC Genetic Analysis Kit(ST-07550)を用いた9つの遺伝子座における高解像度での核型異常スクリーニング(p5、p8、p10で実施)、STEMdiff Trilineage Differentiation Kit(ST-05230)による分化能の確認(p5に実施)、マーカー分子OCT4の発現確認(p1、p5、p10で実施)と細胞の形態評価。p6-p10の時期で行うヒト大脳オルガノイドの作製には、CDK5RAP2のC末端欠失を有する安定な遺伝的クローンを使用しました。

C)大脳オルガノイドはSTEMdiff Cerebral Organoid Kitを用いて作製しました。RNAはDay 5、7、10、および18で抽出し、RT-qPCRにより神経マーカー(DCXとTUJ1)、神経前駆細胞マーカー(PAX6とSOX2)の発現を解析しました。Day18には、オルガノイドの凍結切片を作製してPAX6とTUJ1について免疫染色を行いました。

実験結果

ArciTect CRISPR-Cas9ゲノム編集による、CDK5RAP2での停止コドン

Organoid2.png

A)CDK5RAP2の一次配列。原発性小頭症に関与する疾患変異はで示され、タンパク質-タンパク質相互作用領域灰色)と中心体結合ドメイン緑)はC末端に見られます。Box部分:設計されたガイドRNAの一次配列はオレンジでハイライトされています。

B)オフターゲット遺伝子編集については、CDK5RAP2を標的として設計されたガイドRNAに対して、オフターゲットサイトとなる可能性が予測される遺伝子座にサンガーシークエンシングを行うことにより、その有無を決定しました。その結果、解析を行った遺伝子座にはオフターゲット編集が起こっていない事を確認しました。ミスマッチ塩基はでハイライトしています。

C)コントロール、ヘテロ、複合ヘテロの各細胞株でサンガーシークエンスを行い得られたDNA及びアミノ酸配列情報。これにより、フレームシフトと中途停止コドンが生じる2塩基対欠失、4塩基対欠如がそれぞれのヘテロにおいて、存在することが判明しました。

遺伝子編集したCDK5RAP2クローンはhPSCとしての形態と多能性を示す

Organoid3.png

A) ヘテロ及び複合ヘテロの安定な<hPSCクローンの代表的な位相画像形態はコントロール細胞株由来のhPSCと同様、多層で高密度に充填されています。

B) hPSC コロニーの核はDAPI(灰色)で示しています。

C)クローン細胞株は未分化細胞マーカーOCT4 (OCT3)(緑色)を発現していました。

D)各クローン細胞株の分化能を、STEMdiff Trilineage Differentiation Kitを使って評価しました。全てのクローン細胞株は外胚葉(PAX6陽性)、内胚葉(SOX17陽性)、中胚葉(Brachyury陽性)への高い分化能を示しました。

遺伝子編集したCDK5RAP2クローンに対する遺伝的な安定性の確認

Organoid.png

A)5回目の継代において、コントロールと遺伝子編集された細胞株の核型は正常な二倍体を示しています。倍数性は、hPSCの典型的なバックグラウンドレベル(<10%)と比較して、ヘテロ、複合ヘテロ両細胞株で上昇がみられます(ヘテロ:~20%、複合ヘテロ:~33%)。これは、分裂中期や細胞質分裂の際の染色体分離で潜在的なエラーが起こっている可能性を示しています。

B)遺伝子編集された細胞株を、9個の遺伝子座における再発性の核型異常についてスクリーニングしました。スクリーニングされた細胞株はすべて、p5p10においては正常な倍数体コピー数を示していました。

複合ヘテロクローンでは細胞分裂の間CDK5RAP2が誤った局在となるが、hPSCの増殖率には影響なし

Organoid4.png

A)コントロールおよびヘテロの細胞では、分裂中期に入ったhPSCCDK5RAP2(紫)がアクチン(緑)で示される紡錘体の各極に存在する独特の局在パターンになります。核はDAPI(灰色)で示されています。複合ヘテロではCDK5RAP2(紫)の紡錘体への局在は見られません。

B) hPSCにおけるCDK5RAP2の転写産物についてのRT-qPCR解析では、コントロールやヘテロに比べて複合ヘテロでCDK5RAP2の転写産物の発現の低下が見られました(データポイントあたり3つのタイムポイント(n=3)、平均+/- SEM、コントロールを基準に正規化;複合ヘテロとヘテロを比較した際、P ≤0001)

C)すべてのクローン細胞株において、hPSCの増殖率に有意な差はありませんでした(データポイントあたり3つのテクニカルレプリケイト(n=3)、平均+/- SEMP > 0.05)。

CDK5RAP2は大脳オルガノイドのサイズを減少させ、Day18でマーカー発現に影響を与える

Organoid5.png

A)オルガノイド形成の各ステージにおけるhPSC由来オルガノイドの代表的な位相差画像。

B) オルガノイド形成の各ステージにおける面積測定(μm2) では、すべてのステージにおいてCDK5RAP2複合ヘテロにおいてコントロールに比べてサイズ減少が見られます(n=4、データポイントあたり12-16個のオルガノイド、平均+/- SEM;コントロールと複合ヘテロ型の比較においてP ≤05)。

C)大脳オルガノイド形成の各ステージのオルガノイドにおけるRT-qPCR解析により、Day18での神経前駆細胞マーカー(SOX2PAX6)、神経マーカー(DCXTUJ1)の発現が複合ヘテロとコントロールで違いがあることが示されました(n=4、データポイントあたり12-16個のオルガノイド、平均+/- SEM、コントロールを基準に正規化;ns: P > 0.05, *: P ≤ 0.05, **: P ≤ 0.01)。

D)Day18のオルガノイドの免疫染色により、複合ヘテロクローンでは皮層においてコントロールやヘテロクローン細胞株に比べて神経マーカーのTUJ1 (緑)の発現が亢進、神経前駆細胞マーカーPAX6 (紫)の発現が減少していることが示されました。脳室帯様の領域は白の破線で示しています。

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CRISPR-Cas9 Gene Editing of Cerebral Organoids to Model Microcephaly

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演者
Dr. Leon Chew (Scientist, STEMCELL Technologies社)

内容
小頭症をモデル化するため大脳オルガノイドのゲノム編集を行った研究についての、バーチャルポスター発表です。CRISPR-Cas9を使用して変異hPSC株を作製し、安定したクローンの細胞品質特性を明らかにし、大脳オルガノイドに分化させた方法を説明します。得られた大脳オルガノイドはLancaster博士の報告より小さい一方で、神経発生に同様の欠陥を持っていました。(収録時間10分8秒、2019/2公開)

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