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ラーニングコーナー

2024/10/25

IntestiCult™とImmunoCult™による大腸オルガノイド・T細胞共培養

  • 用途別細胞培養

オルガノイドとT細胞の共培養は、免疫腫瘍学の新規治療薬を評価する実用的な in vitroモデルとして浮上しています。患者由来オルガノイド(patient-derived organoids; PDO)は、生理学的関連性のある前臨床データを提供し、標的治療への応答を患者特異的に評価できるようにします。PDOとT細胞の両方に最適な培養条件が開発されていますが、同じ培地中で両細胞タイプの生存能力と機能を維持する培養条件を特定するには課題が残っています。

この技術報告では、大腸がん(colorectal cancer; CRC)由来のPDOとT細胞を、IntestiCult™ Organoid Growth Medium (Human)ImmunoCult™-XF T Cell Expansion Mediumを用いて共培養し解析する方法、およびその検証結果を紹介します。詳細な手順は、これら製品の添付文書(製品情報シート)を合わせてご確認ください。

本稿の内容は、STEMCELL Technologies社ウェブサイトの記事(Co-Culturing Colorectal Organoids and T Cells using IntestiCult™ and ImmunoCult™)に基づいています。

オルガノイド共培養に用いるT細胞の取得(オプション)

EasySep™細胞分離キットで末梢血単核細胞(PBMC)からT細胞を単離し、共培養実験用に採取します。予め分離された新鮮または凍結PBMCを使用すれば、実験時間の節約になります。

あるいは、EasySep™ DirectまたはRosetteSep™細胞分離キットで、全血から直接T細胞を単離します。ヒトT細胞単離用キットの一覧は、こちらからご覧ください。

以下の手順は、EasySep™細胞分離キットでT細胞を取得する一般的な手順です。

  1. SepMate™を使用して、ヒト全末梢血からPBMCを取得します(SepMate™単離プロトコル参照)。あるいは、新鮮または凍結保存されたヒト末梢血Leukopakを、Leukopak処理プロトコルに従い細胞分離用に処理します。
  2. 細胞懸濁液が調製できたら、使用するEasySep™細胞分離キットの製品情報シートに記載された手順に従いT細胞を分離してください。
  3. 高純度に精製されたT細胞は、後で使うために凍結保存するか、ImmunoCult-XF™ T Cell Expansion Mediumで製品情報シートに記載された手順(ステップ2.~5.)に従い増殖させることができます。

オルガノイドおよびT細胞の培養と共培養準備

  1. 培地を調製し、IntestiCult™ Organoid Growth Medium (Human) の製品情報シートに記載された手順に従いオルガノイド培養を樹立します。

    注:大腸がん(CRC)オルガノイドなどのがん由来オルガノイド培養は、IntestiCult™ OGM Human Basal Mediumを使用して、Wnt非依存性大腸がんオルガノイドに最適化された改変プロトコルと増殖培地で樹立および維持する必要があります。詳しくは、Culturing Cancer-Derived Organoidsを参照してください。

  2. IntestiCult™の製品情報シートに記載された手順に従い、腸オルガノイドを増殖させます。
  3. IntestiCult™の製品情報シートに記載された手順に従い、DMEM + 1% BSAを調製します。
  4. 共培養で使用する前に、オルガノイドをIntestiCult™ Organoid Growth Medium (Human)で継代してから1〜2日間増殖させます。

    注:CRCオルガノイドは、IntestiCult™ OGM Human Basal Mediumのみ(商品コード:ST-100-0190)と等量のDMEM/F-12 with 15 mM HEPES(同:ST-36254)を混合した培地を用いて選択し、増殖させることができます。

  5. 共培養で使用する前に、T細胞をImmunoCult-XF™ T Cell Expansion Mediumで継代または融解してから、1~2日間増殖させます。
  6. 共培養用の培地を調製します。

    a. IntestiCult™ OGM(オルガノイドががん由来なら基礎培地、それ以外なら完全培地)とImmunoCult-XF™ T Cell Expansion Mediumを同量ずつ混合します。使用するまで氷上に置きます。分注保存されたMatrigel®を氷上で解凍します。
    b. オルガノイド培養で使用する前に、950 μLの氷冷共培養培地につき50 μLの氷冷Matrigel®を加えます。使用するまで氷上に置きます。

  7. Matrigel®からオルガノイドを取り出して洗浄します:

    a. 室温の細胞解離試薬 Gentle Cell Dissociation Reagent(GCDR)を各ウェルの露出したドーム上に1 mL加えます。
    b. 室温で1分間インキュベートします。
    c. 予めGCDRで湿らせた1 mLピペットチップを使って、Matrigel®ドームをウェル底から完全にこすり落とします。
    d. ウェル内のGCDRをピペッティングでゆっくりと2〜3回上下させ、ドームとオルガノイドを解離します。すべてのMatrigel®断片がプレートから洗い流されていることを確認してください。

    注:ピペッティングする際、ピペットの先端でウェル底に触れないでください。

    e. 同じピペットチップを使って、オルガノイド混合物を15 mLコニカルチューブに移します。
    f. 空にしたウェルに1 mLのGCDRを加えます。予めGCDRで湿らせたピペットチップを使って、GCDRをピペッティングで2〜3回上下させ、ウェルをすすぎます。ウェル内容物を、手順e. の15 mLコニカルチューブに移します。
    g. 共培養に使用する各ウェルについて、手順a.〜f. を繰り返します。
    h. チューブを、中速(~40 rpm)に設定した振盪装置上で室温、10分間インキュベートします。
    i. チューブを2〜8°Cで、290 x g、5分間遠心分離します。上清をゆっくり流し出し、捨てます。
    j. 5 mLの氷冷DMEM + 1% BSAを各チューブに加え、穏やかに再懸濁します。

  8. 100 μLあたりのオルガノイド数を定量し、共培養培地100 μLあたりオルガノイド1700個にする必要容量を算出します。

    注:播種密度の計算例は、IntestiCult™の製品情報シートに記載されています。

  9. チューブを2〜8°Cで290 x g、5分間遠心分離します。上清をゆっくり流し出し、捨てます。
  10. オルガノイドを共培養培地に再懸濁します(50 μL/オルガノイド1700個)。
  11. 手順5. で培養したT細胞をオルガノイド懸濁液に加えます(50,000細胞/50 μL)。

    注:望ましい量は、100 μLの共培養培地あたりオルガノイド 1,700個およびT細胞 50,000個です。

  12. 100 μLのオルガノイド-T細胞懸濁液を96ウェルプレートの各ウェルに加えます。
  13. 組織培養インキュベーター内で、37°C、5% CO2でインキュベートし、共培養を開始します。

オルガノイド・T細胞共培養における生存率アッセイ

  1. オルガノイドの生存率を、CellTiter-Glo® 3D(Promega Benelux BV. カタログ#G9683)を用いて経時的(培養開始から0、3、5日目など)に測定します。
  2. さまざまな培地条件でのT細胞の生存率測定用には、T細胞を96ウェルプレートに50,000個/ウェルのトリプリケート条件で播種します。
  3. GloCell™ Fixability Viability Dye Red 780(商品コード:ST-75007)とフロー解析により、T細胞の生存率を経時的(培養開始から0、3、5日目など)に測定します。

検証結果:大腸がんオルガノイドと腫瘍浸潤リンパ球の共培養モデル

腫瘍浸潤リンパ球(tumor-infiltrating lymphocyte; TIL)とCRC患者由来オルガノイド(CRC-PDO)を組み合わせて共培養アッセイを行い、IntestiCult™とImmunoCult-XF™の混合培地が生理学的条件下でT細胞の反応性を許容するか、また同時にオルガノイド培養をサポートするかを評価しました。確定してはいないものの、CRC-PDOに対するTILの反応性は、腫瘍DNAの体細胞変異に由来する新抗原に向けられている可能性が最も高いです。本モデルは外因性ペプチドを付加するPDOモデルと異なり、腫瘍反応性は内因的に処理および提示されたペプチド濃度に依存します。本研究では、同量のIntestiCult™培地とImmunoCult-XF™培地(50:50)を混合した培地を、100% IntestiCult™培地(0% ImmunoCult-XF™)および100% ImmunoCult-XF™培地(0% IntestiCult™)の両方と比較しました。

混合培地組成がT細胞の反応性を許容するかを共培養モデルで評価する前に、コントロール条件下でカスパーゼ-3/7アポトーシスシグナルを測定しました(関連製品:こちら)。コントロール条件として、100% ImmunoCult-XF™培地でのCRC-PDOとTILの共培養、100% ImmunoCult-XF™培地でのオルガノイド単独培養、そしてアポトーシス誘導剤のスタウロスポリン添加によるポジティブコントロールを設定しました。100% ImmunoCult™およびスタウロスポリンを添加した共培養では、どちらも共培養の初期段階からカスパーゼ-3/7シグナルが明確に発達しました(図1)。オルガノイド単独培養では、アポトーシスのトリガー(T細胞またはスタウロスポリン)がないため、カスパーゼ-3/7が無視できることを示しました。

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図1. コントロール条件下のカスパーゼ-3/7アポトーシスシグナルの定量
カスパーゼ-3/7のレベルで測定されるアポトーシスシグナルは、100% ImmunoCult-XF™での培養下、ポジティブコントロール(スタウロスポリン)と共培養の両条件に存在しました。オルガノイド単独培養条件では、アポトーシス活性化因子がないためカスパーゼ-3/7はごくわずかでした。「Co-Culture」は100% ImmunoCult-XF™培地でのCRC-PDOとTILの共培養を、「Staurosporine」はアポトーシス誘導剤スタウロスポリンを添加した100% ImmunoCult-XF™培地での共培養を、「Organoids Only」は100% ImmunoCult-XF™培地でのオルガノイド単独培養を表します。値は平均値 ± SDで示しています。データはHUB Organoidsの許可を得て使用しています。

CRC-PDOとTILの共培養モデルにおける50% IntestiCult™と50% ImmunoCult-XF™(50:50)培地組成の性能を評価し、T細胞の活性化をサポート可能か判断しました。カスパーゼ-3/7アポトーシスシグナルの定量化によって、オルガノイド内のアポトーシスを標的化およびトリガーするT細胞の有効性を評価しました。50%混合培地での共培養ではカスパーゼ-3/7が最高レベルに達し、T細胞の活性化をサポートすることが実証されました(図2)。

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図2. 混合培地中のカスパーゼ-3/7アポトーシスシグナルの定量が示す、オルガノイド共培養中のT細胞活性化
カスパーゼ-3/7で測定したアポトーシスシグナルは、IntestiCult™とImmunoCult-XF™の50:50混合培地を用いたCRC-PDOとの共培養中にT細胞が活性化したことを示しました。「Co-Culture」は50:50混合培地でのCRC-PDOとTILの共培養を、「Staurosporine」はアポトーシス誘導剤スタウロスポリンを添加した50:50混合培地での共培養(ポジティブコントロール)を、「Organoids Only」は50:50混合培地でのCRC-PDO単独培養(ネガティブコントロール)を表します。値は平均値 ± SDで示しています。

T細胞の活性と機能のマーカーとしてIFN-γの分泌をさまざまな培地条件で評価する前に、非活性化および活性化T細胞(TIL)の両方でIFN-γ分泌を調べました(関連製品:ST-02003)。スタウロスポリンを添加した条件をコントロールに設定しました。非活性化T細胞ではIFN-γは最小限の検出または未検出でしたが、活性化T細胞(抗CD3/CD28抗体)では分泌が有意に増加しました(図3)。

50% IntestiCult™と 50% ImmunoCult™の50:50混合培地組成では、100% IntestiCult™培地と比較して、高いIFN-γ産生が観察されました(図4)。

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図3. 活性化および非活性化T細胞によるIFN-γ分泌の定量
IFN-γを定量化すると、非活性化(Unactivated)T細胞では最小限でしたが、活性化(Activated)T細胞では有意な分泌が測定されました。値は平均値 ± SDで示しています。P値は、独立両側t検定で算出しました。*** p < 0.001 は有意差を示します。データはHUB Organoidsの許可を得て使用しています。

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図4. 異なる培地で共培養したT細胞によるIFN-γ分泌の定量
CRC-PDOとTILの共培養において、異なる培地条件下でIFN-γ分泌を測定しました。「IntestiCult™ 100%」は100% IntestiCult™培地、「50:50 Blend」はIntestiCult™とImmunoCult-XF™の50:50混合培地、「ImmunoCult™-XF 100%」は100% ImmunoCult™培地での培養を表します。値は平均値 ± SDで示しています。P値は、一元配置分散分析(one-way ANOVA)と多重比較のためのチューキー事後検定で算出しました。* p < 0.05、** p < 0.01、*** p < 0.001。データはHUB Organoidsの許可を得て使用しています。

結論

IntestiCult™ Organoid Growth Medium (Human) 50%とImmunoCult™-XF T Cell Expansion Medium 50%を50:50でブレンドした細胞培養培地は、T細胞の生存率や機能性に悪影響を与えることなく、患者由来の大腸がんオルガノイドの生存率をサポートすることに成功しました。この技術情報では、STEMCELL Technologies 社の定評ある 2 種類の培地を共培養に使用することで、新規治療薬、患者特異的治療評価、疾患メカニズムなどを研究する免疫腫瘍学研究者に道を開くことができることを実証しています。

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