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ラーニングコーナー

2020/11/16

In Vitroの血液毒性検査のための培地とサプリメント

  • 用途別細胞培養

骨髄(Bone Marrow: BM)での血液細胞形成維持に副作用を及ぼす薬品はたくさんあります。それらの副作用には、患者の生命を脅かしうるものがあり、そのことにより薬剤の全体的な効能や臨床利用は限られたものとなってしまっています。そのため創薬のプロセスにおいて、通常の造血幹細胞・前駆細胞(Hematopoietic stem and progenitor cell: HSPC)に対する薬剤候補の血液毒性を定量的に測定するin vitroの検査法は必須のものとなっています。

HSPCは、BMから容易に得る事ができます。従来より、BMや臍帯血(Umbilical cord blood: CB)を用いたin vitroのコロニー形成ユニットアッセイ(Colony-forming unit assay: CFU assay)は血液毒性測定法のゴールドスタンダードであり、in vitroで血液細胞に対する薬剤の毒性を予測するために利用されています。1.2 CFUアッセイは有益な情報が得られる高コストな手法であり、薬剤候補のプールが十分に絞られる創薬の後期段階においては最も有用性の高い方法です。一方、本稿でご紹介している、液体培地による細胞培養をベースとしたマルチウェルでの新たなアッセイ法は、創薬の初期段階で多くの化合物を検査する場合にはより適した方法となります。

併せてこちらも(https://www.stemcell.com/technical-resources/methods-library/characterization-assays/protocols/drug-and-toxicity-testing/media-and-supplements-for-in-vitro-hematotoxicity-testing.html)ご確認ください。

In Vitroの血液毒性検査のための培地とサプリメント

STEMCELL Technologies社は、96ウェル培養プレートでヒトHSPCの増殖と細胞系列特異的な分化に対する薬剤の影響を検査するための3種のHemaTox™キットを開発しました。
それぞれのキットは特定の前駆細胞の増殖における影響を検査するようデザインされています。HemaTox™ Erythroid KitHemaTox™ Myeloid KitHemaTox™ Megakaryocyte Kit はそれぞれ赤血球、ミエロイド、巨核球に特異的な毒性を検査するために設計されており、それぞれ貧血、好中球減少症、血小板減少症を薬剤が引き起こす可能性をin vitroで予測する目的での使用が可能です。各キットには目的に特化した無血清培地とサプリメント(100x)が入っており、CD34陽性のヒト造血前駆細胞をそれぞれの細胞系列へと増殖・分化させるために最適化されています。1つのキットには96ウェル5枚分、150〜250個までの化合物を検査するのに十分な量の培地とサプリメントが含まれますが、検査できる化合物の数はサンプルのレプリケイトとコントロールの数によって変動します。

商品名 商品コード
HemaTox™ Erythroid Kit* ST-09701
HemaTox™ Myeloid Kit* ST-09704
HemaTox™ Megakaryocyte Kit* ST-09707

* 100 mLの培地、1 mLのサプリメント(100X)が含まれています

HemaTox Kitの特長

実証された機能性 現在、CFUアッセイが血液毒性を測定する標準的なin vitroアッセイ系として利用されていますが、同じ細胞系列をターゲットとするHemaToxとCFUアッセイで比較した場合、両者で類似したIC50値が得られる事が確認されています。

高い特異性 培養条件はCD34陽性HSPCが赤血球、ミエロイド、巨核球それぞれの前駆細胞へと分化するようにデザインされています。

フレキシブルな利用性 検査対象の化合物は影響をチェックしたい段階に応じて添加する事ができます。分化前の前駆細胞への影響を知りたい場合には培養開始時に、さらに分化した細胞への影響を知りたい場合には培養のより後期に化合物を添加して頂けます。検査のターゲットによって適した測定方法は異なる可能性があります(フローサイトメトリーやプレートリーダーなど)。

液体培養にもとづくIn Vitro血液毒性検査の方法

以下のプロトコールは、ヒト骨髄(BM)または臍帯血(CB)由来のCD34陽性細胞をHemaTox™ Kitで特定の細胞系列へと増殖・分化させる場合に推奨される一般的な手順であり、赤血球、ミエロイド、巨核球に対する化合物の毒性を確認するためのものです。プロトコールの詳細については各キットの製品情報シート(PIS、製品添付文書)をご参照ください。

  1. 1回の実験で使用する分の完全培地(HemaTox™ Medium + 100X Supplement)を十分量準備します。
  2. 検査化合物を完全培地で希釈します。
  3. 完全培地を用い、溶媒コントロールを検査化合物と同じ希釈倍率で希釈したものを調整します。
  4. ヒトBMまたはCBより、CD34陽性細胞を分離します。分離したフレッシュなCD34陽性細胞をすぐに使用することも、凍結保存して後で使用することも可能です。CD34陽性細胞は次のようにして分離する事が可能です:
     a. BM由来単核球よりEasySep Human CD34 Positive Kit II を使用して分離。
     b. CBよりEasySep™ Human Cord Blood CD34 Positive Selection Kit II を使用して分離。
    *もしも予め濃縮されたCD34陽性細胞を使用する場合、このステップは省略可能です。
  5. 完全培地に懸濁した細胞を96ウェル平底プレートに播種します。
  6. 検査薬剤とコントロールをウェルにそれぞれ添加します。
  7. 96ウェルプレートを加湿用のチャンバー(例:スクエアプレート/商品コード:ST-27140)の四隅に滅菌水を入れた35 mmディッシュ を置いたものなど)に入れます。
  8. 37°C、5% CO2の条件下で次の期間インキュベートします:
     a. 7日間: HemaTox™ Erythroid Kit、Myeloid Kitの場合
     b. 10日間: HemaTox™ Megakaryocyte Kitの場合
  9. フローサイトメトリーやその他の測定方法により、検査のターゲットについて解析します。

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Figure 1. HemaTox™ Kitの一般的な使用方法
*細胞分離のステップは、予め濃縮されたCD34+細胞を使用する場合は省略可能

培養で分化した細胞の解析

HSPCの増殖や細胞系列特異的な分化プロセスに対する検査化合物の影響について解析するために、適当な測定方法を選択する事ができます。推奨される測定方法にはフローサイトメトリーがあり、培養細胞を細胞系列特異的な表面マーカーを認識する標識抗体で染色し、そのマーカーを発現する細胞の絶対数を計測することが可能です。これにより細胞反応を定量化する事ができ、検査化合物の50%、90%阻害濃度(それぞれIC50、IC90)を見積もる事が可能となります。その他の測定方法としては自動セルカウント、イメージングフローサイトメトリー、プレートリーダーなども使用可能ですが、その場合にはさらなる最適化が必要となる場合があります。

Table 1.フローサイトメトリーによるイムノフェノタイピング抗体染色パネル

商品名 抗体* 商品コード 同定される細胞
HemaTox™ Erythroid Kit 抗ヒトCD71抗体, Clone OKT9, PE
抗ヒトCD235a/Glycophorin A (GlyA)抗体, Clone 2B7, FITC
ST-60106PE
ST-60152FI
•赤血球前駆細胞/前赤芽球 (CD71+GlyA-)
•赤血球(CD71+GlyA+)
•正赤芽球/網状赤血球 (CD71loGlyA+)
HemaTox™ Myeloid Kit 抗ヒトCD13抗体, PECy7
抗ヒトCD14抗体, Clone M5E2, PE
抗ヒトCD15抗体, FITC

ST-60004PE
•ミエロイド前駆細胞(CD13+)
•単球(CD14+)
•顆粒球(CD15+)
HemaTox™ Megakaryocyte Kit 抗ヒトCD45抗体, Clone HI30, PE
抗ヒトCD41抗体, Clone HIP8, FITC
ST-60018PE
ST-60114FI
•巨核球(CD45+CD41+)

*推奨される蛍光色素を記載しておりますが、ご使用の機器や解析に応じてご自身で蛍光色素をお選び頂く必要があります。

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Figure 2. HemaTox™ Erythroid Kit、Myeloid Kit、Megakaryocyte Kitを使用してCD34陽性HSPCを培養後に分化した細胞に対するフローサイトメトリー解析
(A)培養前のヒトCB由来CD34陽性細胞、ヒトCB由来CD34陽性細胞をそれぞれ(B) HemaTox™ Erythroid Kit、(C) HemaTox™ Myeloid Kit、(D) HemaTox™ Megakaryocyte Kitを使用して上記プロトコールに従い培養した結果。適当な培養期間の後、細胞を回収して細胞表面マーカー(赤血球:CD71とGlyA、ミエロイド:CD13とCD15、巨核球:CD45とCD41)に対する標識抗体で染色をおこないました。

薬剤による血液毒性の測定例

薬剤濃度依存的な造血前駆細胞の増殖抑制

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Figure 3. HemaTox Erythroid Kit、HemaTox Myeloid Kit、HemaTox Megakaryocyte Kit使用時の薬剤濃度依存的な造血前駆細胞増殖抑制
HemaTox Erythroid Kit、HemaTox Myeloid Kit、HemaTox Megakaryocyte Kitを使用して6つの薬剤について選択をするため、用量反応曲線を作成しました。これらの曲線により、各薬剤のIC50値やIC90値を算出する事ができます。各薬剤濃度における細胞数は最大細胞増殖率(%)として標準化しています。トポイソメラーゼ阻害剤2種(トポテカン [A,B,C]とイリノテカン [データ非開示])、チロシンキナーゼ阻害剤2種(スニチニブ[D,E,F]とイマニチブ [データ非開示])、抗代謝剤2種(シスプラチン [G,H,I] と 5-フルオロウラシル [5-FU、データ非開示])について評価しました。ヒトBM由来CD34陽性細胞を使用し、各キットのプロトコールに従い評価をおこないました(各キットのPISをご参照ください)。それぞれのデータポイントは3-6個のレプリケイトの平均値を表しています(データポイントにある縦線は標準誤差です)。

IC50 値決定におけるHemaTox™キットの再現性

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Figure 4. 異なる実験回、別個に調整したCD34陽性細胞間でHemaTox™キットを用いた場合の再現性
3人のドナーより分離したヒトCB由来CD34陽性細胞をHemaTox™ Erythroid Kit (A, D)、Myeloid Kit (B, E)、Megakaryocyte Kit (C, F)をそれぞれ使用して培養し、濃度を振って5-FUを添加した際の用量反応曲線を作成しました。各ドナー由来の細胞は、3−5回の別個の実験に使用しました。実験ではドナーに関わらず、また(同じドナー由来の細胞の場合)おこなわれた実験回に関わらず類似したIC50値が得られました。図でお示ししているのは、薬剤無添加時の最大細胞増殖率を100%とした場合の各薬剤濃度の最大細胞増殖率です。 細胞カウント(絶対数)は異なるにも関わらず、実験ごとに標準化すると再現性のある反応曲線が得られました。 (D、E、F)各キットでの培養における、実験間の標準偏差(SD)、パーセント変動係数(% CV)を含めた5-FUのIC50値の表。

IC50 値おけるCFUアッセイとHemaTox™キットの相関性

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Figure 5. 6種の薬剤におけるCFU-GMアッセイとHemaTox™ Myeloid Kitで得られたIC50値の相関性
ヒトBM由来CD34陽性細胞を、MethoCult™を用いた顆粒球/マクロファージ系コロニー形成ユニット(colony-forming unit - granulocyte/macrophage: CFU-GM)アッセイ及びHemaTox™ Myeloid Kitを用いた液体培地培養でそれぞれ培養しました。各アッセイのIC50値をそれぞれX軸とY軸にプロットしたところ、決定係数(R2)が0.91の高い相関性が確認されました。

薬剤血液毒性の細胞系列特異的な違い

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Figure 6. HemaTox™ Erythroid Kit、 Myeloid Kit、 Megakaryocyte Kitにより明らかになった薬剤血液毒性の細胞系列特異的な違い
HemaTox™キットを使用し、ヒトBM由来CD34陽性細胞に対して検査した各薬剤のIC50の平均値(HemaTox™ Erythroid Kit(灰色)、 Myeloid Kit(金色)、 Megakaryocyte Kit(オレンジ色))。ほとんどの薬剤では各細胞系列で類似した毒性を示していましたが、スニチニブなどでは赤血球前駆細胞に対する毒性が巨核球前駆細胞に対する毒性よりも100倍程度強く、ミエロイド前駆細胞に対してはその中間の毒性を示しました。棒グラフ上の縦線は標準誤差(SEM, n=4-8)を表しています。) スニチニブにおけるCFU-GMアッセイとHemaTox™キットを使用して得られたIC50値についてはTable 2をご参照ください。

Table 2. CFUアッセイとHemaTox™ Kitを使用して得られたスニチニブのIC50値の比較

HemaTox™ Kit IC50(µM) CFU Assay IC50(µM)
Erythroid 0.002 BFU-E 0.04
Myeloid 0.05 CFU-GM 0.08
Megakaryocyte 0.6 CFU-Mk > 1.0

CFUアッセイにおける各細胞系列前駆細胞のIC50値は、赤血球前駆細胞(burst-forming unit – erythroid: BFU-E)やミエロイド前駆細胞(CFU-GM)の増殖をサポートするMethoCult™培地、または巨核球前駆細胞(colony-forming unit – megakaryocyte: CFU-Mk)の増殖をサポートするMegaCult™-C培地でヒトBM由来CD34陽性細胞を培養することにより得られました。一方、細胞はHemaTox™ Erythroid Kit、Myeloid Kit、Megakaryocyte Kitを用いた系でも培養し、各キットで培養した際のIC50値を得ました。IC50値は全部で6つのアッセイ系について取得しました。得られた結果より、赤血球系列は巨核球系列よりもスニチニブに対して100倍程度感受性が高い事が示されました。さらに、HemaTox™ Erythroid Kitを使用して得られたIC50値は、赤血球前駆細胞のCFUアッセイであるBFU-Eで得られた値よりも10倍程度低いものでした。これは、薬剤によってはHemaTox™ kitが、古典的なCFUアッセイでは表出されにくい毒性をも検出しうることを示しています。

ご購入可能なフレッシュ及び凍結保存末梢血、臍帯血、骨髄製品については、以下リンクよりご確認ください。
STEMCELL Technologies社 ヒト正常および疾患血液細胞/プライマリーセル

参考文献

  1. Pessina A et al. (2003) Toxicol Sci 75:355-367.
  2. Pessina A et al. (2009) Toxicol In Vitro 23(1):194-200.

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