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ラーニングコーナー

2020/11/17

神経オルガノイドの培養

  • 用途別細胞培養

大脳オルガノイドは、ヒト大脳の発生時の細胞組成・構造を反映した3次元in vitroモデルです。
STEMdiff™ Cerebral Organoid Kitは、Madeline Lancasterらの報告1, 2を基に開発された大脳オルガノイド培養用の無血清培地で、オルガノイド形成の効率と再現性を高めるよう組成が最適化されています。これによりヒト多能性幹細胞 (Human pluripotent stem cell: hPSC) 由来の大脳オルガノイドを安定的に樹立できます。
本プロトコルでは、STEMdiff™ Cerebral Organoid Kitをもちいて、コロニーの境界が明確で、稠密に詰まり、かつ表面積の分化度が10%未満の、hPSC由来 大脳オルガノイドを得る方法を記載しています。

併せてこちら(https://www.stemcell.com/neural-organoid-culture.html)もご確認ください。

プロトコル概要

STEMdiff Cerebral Organoid Kitによる大脳オルガノイド培養手順の概要を示します。hPSCから胚葉体(embryoid body; EB)の形成、誘導、増殖、成熟の段階を経て、約40日で成熟したオルガノイドを得ることができます。詳細は、後述する各ステージの手順でご確認ください。

cerebral_flow.jpg

実験を始める前にご確認ください:  STEMdiff™ Cerebral Organoid培地の調製は無菌的におこなってください。STEMdiff™ Cerebral Organoid Supplementは室温(15-25℃)で融解し、しっかり混ぜてください。すぐに使用しない場合、サプリメントを分注して-20℃で保存し、保管期限は守るようにしてください。分注ストックの融解後はすぐに使用し、再凍結しないでください。

神経オルガノイド培養の動画マニュアル

ステージ I: 胚様体の形成(Day 0-5)

用意するもの

  • STEMdiff™ Cerebral Organoid Kit より:
    • STEMdiff™ Cerebral Organoid Supplement A
    • STEMdiff™ Cerebral Organoid Basal Medium 1
  • D-PBS (without Ca++ & Mg++) (PBS; 製品コード: ST-37350)
  • ピペットチップ(例: Corning® Filtered Pipette Tips)
  • ピペッター(例:Corning® Lambda™ Plus Pipettor; 製品コード:ST-38058)
  • Gentle Cell Dissociation Reagent
  • 50 mLコニカルチューブ(例:Falcon® Conical Tubes, 50 mL)
  • Y-27632(ROCK阻害剤)
  • 96 well丸底プレート、超低接着表面処理(例:Corning #7007)
  • マルチチャンネルピペット(例:Corning® Lambda™ Plus Multi-Channel Pipettor)
  • 培養ディッシュ(例:35 mm Culture Dishes)

プロトコル

ご注意:

  • 本プロトコルは、6ウェルプレート1ウェルで培養したhPSCから胚様体 (Embryoid body: EB) を形成します。他の培養器を使用する場合は、ボリュームを調整してください。培養器、培地、試薬はご使用前に室温(15-25℃)に温めておいてください。
  • hPSC培養はコロニーの大多数が大きく、細胞が稠密に詰まり、中央が多層になったら継代してください。コロニーの密度は70-80%を超えず、分化は10%を超えない時点でhPSCの継代をおこなってください。

Day 0

  1. 10 mLのSTEMdiff™ Cerebral Organoid Supplement Aを40 mLのSTEMdiff™ Cerebral Organoid Basal Medium 1に添加してEB形成培地(EB Formation Medium)を調製します。
  2. 顕微鏡を使い、hPSC培養中に分化が進んでしまった領域を目視で確認します。分化した領域はピペットチップで削り取るか、吸い取って除去します。
  3. hPSCを培養したプレート器から培地を吸い取って除去し、PBSでリンスします。
  4. PBSを吸い取って除去し、1 mLの Gentle Cell Dissociation Reagentを添加します。
  5. 37℃で8-10分間インキュベートします。
    ご注意:インキュベーション時間は他の細胞株や酵素非依存的な細胞剥離液を使用する場合には変動する場合があります。
  6. 1 mLのピペッターを用い、ゆっくりと3-5回ピペッティングして細胞を穏やかに懸濁します。細胞懸濁液は無菌の50 mLコニカルチューブに移します。
  7. EB Formation Mediumに終濃度10 µMとなるようY-27632を添加し、EB Seeding Mediumを調整します。
  8. 1 mLのEB Seeding Mediumを追加してウェルをリンスし、その液を細胞が入っているチューブに回収します。
  9. 細胞を300 x gで5分間遠心します。
  10. 遠心後の上清を除去し、廃棄します。1-2 mLのEB Seeding Mediumを細胞に添加して懸濁します。
  11. トリパンブルーとヘモサイトメーターで細胞をカウントします。
  12. 90,000 cells/mLの細胞濃度となるボリュームを計算し、そのボリュームになるようにEB Seeding Mediumを添加して調整します。
  13. ステップ12で調整した細胞懸濁液100 µLを、96ウェル丸底培養プレート(超低接着表面処理)の各ウェルに添加します(9,000 cells/well)。
    ご注意: EB形成の効率と再現性を向上させるため、このステップではマルチチャンネルピペッターをご使用頂くことをお勧めします。
  14. 96ウェルプレートを37℃でインキュベートします。最低24時間はインキュベートを中断せずにおこなってください。24時間後、小さいEB (直径100-200 µm)が確認されます。EBの周りには、EBに取り込まれなかった細胞からなる層ができています。

Day 2 - 5

  1. Day 2とDay 4で、各ウェルに100 µLのEB Formation Mediumを添加します。このステップにはマルチチャンネルピペッターの使用をお勧めします。細胞は37℃でインキュベートします。
  2. Day 5にEBを顕微鏡で観察します。EBは直径> 300 µm (通常400 - 600 µm)になっており、エッジが滑らかな丸みを帯びています。EBがこのようになればステージIIに進む事ができます。

ステージ II: 誘導(Day 5-7)

用意するもの

  • STEMdiff™ Cerebral Organoid Kit より:
    • STEMdiff™ Cerebral Organoid Supplement B
    • STEMdiff™ Cerebral Organoid Basal Medium 1
  • 24ウェル超低接着表面処理プレート(例:Corning、 #3473)
    • ご注意:超低接着表面処理プレートの入手が難しい場合、付着細胞培養用(tissue culture-treated)の培養器も使用可能です。その場合は、細胞の接着を防ぐためAnti-Adherence Rinsing Solution で前処理をしてご使用ください。
  • ピペッター(例:Corning® Lambda™ Plus Pipettor)
  • 200 µLワイドボアピペットチップ

プロトコル

Day 5

ご注意:培養器、培地、試薬はご使用前に室温(15-25℃)に温めておいて下さい。

  1. 0.5 mLのSTEMdiff™ Cerebral Organoid Supplement Bを49.5 mLのSTEMdiff™ Cerebral Organoid Basal Medium 1に添加して、Induction Mediumを調整します。
  2. 0.5 mLのInduction Mediumを24ウェル超低接着表面処理プレートの各ウェルに添加します。
  3. 次の方法により、24ウェルプレートの各ウェルに1-2個の胚様体 (EB) を添加します:
     a. 200 µLワイドボアピペットチップを使用して、96ウェルプレート(ステージ IでEBを培養していたもの)の各ウェルからEBを含めて50 µLを吸い上げ、EBを回収します。
     b. EBをピペットチップの中に残し、不要な培地をウェルに注意深く射出して戻します。(培地の射出後、EBがチップの中に残るようにします)
     c. EBをInduction Medium が入った24ウェルプレートのウェル1個の中に入れます。
     ご注意:インキュベータの中でプレートを前後に3−4回振とうして、EBがウェルの中で均一に分布するようにして下さい。互いに接触したEBは、重なって見えます。重なって見えるEBが多く見られる場合には、1個のEBをウェル毎に播くようにして下さい。
  4. プレートを37℃で48時間インキュベートします。Induction Mediumでの培養2日後には、EBは裸眼でも確認できるようになり(直径500 - 800 µm)、エッジが滑らかで半透明になっています。このことは神経上皮の形成を意味します。EBがこのようになればステージIIIへ進む事ができます。

ステージ III: 増殖(Day 7-10)

用意するもの

  • STEMdiff™ Cerebral Organoid Kit より:
    • STEMdiff™ Cerebral Organoid Supplement C
    • STEMdiff™ Cerebral Organoid Supplement D
    • STEMdiff™ Cerebral Organoid Basal Medium 2
  • Corning® Matrigel® hESC-Qualified Matrix (Corning、#354277)
  • Organoid Embedding Sheet (製品コード: ST-08579)
  • 滅菌済100 mm dish (e.g. Culture Dish, Non-Treated)
  • Pipettor (例. Corning® Lambda™ Plus Pipettor)
  • ワイドボア 200 μLピペットチップ)
  • スタンダード(標準的な)200 μLピペットチップ
  • 浮遊培養用超低接着表面処理プレート(Ultra-Low Adherent Plate for Suspension Culture; 製品コード: ST-38071)

プロトコル

Day 7

  1. Matrigel®の融解を2-8℃中、氷上で1-2時間おこないます。
    ご注意: EB一個あたり15 µL となるように、十分量のMatrigel®を融解するようにして下さい。(例:96 wells x 15 µL/well = 1.44 mL Matrigel®)。Matrigel®は早すぎる段階で重合が起こってしまう事がないように、氷上に置くようにしてください。Matrigel®に接する全てのプラスチック製品はご使用30分以上前に-20℃に冷却してお使いください。
  2. 0.25 mLのSTEMdiff™ Cerebral Organoid Supplement Cと0.5 mLのSTEMdiff™ Cerebral Organoid Supplement Dを24.25 mLのSTEMdiff™ Cerebral Organoid Basal Medium 2に添加してExpansion Mediumを調整します。
  3. 無菌のOrganoid Embedding Sheetを、無菌の100 mmディッシュに置きます。 ご注意: Embedding sheetはParafilm®で作成することも可能です。
  4. ワイドボア200 µLピペットチップを使って、[25 - 50 µLの培地+24ウェルプレートのウェルに入っているEB]を吸い上げ、Embedding sheetの表面に移します。Embedding sheetの表面に12-16個のEBを移すまで、このステップを繰り返します
    ご注意: 一度に12 - 16 個を超えるEBを移さないでください。これによりEBが乾燥してしまうのを防ぎ、Matrigel®が早すぎる段階で重合するのを防ぐ事ができます。
  5. 200 µLピペットチップを使い、各EBから余分な培地を注意深く除去します。チップでEBを吸い取ってしまわないよう、チップの先端はEBから離しておこなうようにしてください。
  6. 冷却してある200 µLピペットチップ(スタンダード)をピペッターに装着し、それを用いて15 µLのMatrigel®を各EBの上に滴下します。
  7. 新しい冷却200 µLピペットチップを用い、EBが液滴の中央に来るように位置を整えます。
  8. Matrigel®を重合させるため、プレートを37℃のインキュベータに30分間静置します。
  9. 無菌の鉗子を使ってMatrigel®の液滴が乗っているembedding sheetを掴みます。
  10. 6ウェル超低接着表面処理プレートの1つのウェルに、シートを直接置きます。1 mLピペッターでExpansion Mediumを吸い上げ、穏やかにMatrigel®の液滴をシートからウェルの中へと洗い流します。1ウェルにつき3 mLのExpansion Mediumを使用します。12-16個のMatrigel®の液滴をウェルに入れるまでこの操作を繰り返します。
  11. 37℃で3日間インキュベートします。EBの表面に出芽が見られ、埋め込まれたオルガノイドには神経上皮の増殖が見られるようになります。このようになればステージIVへ進む事ができます。

ステージ IV: オルガノイドの成熟(Day 10-40+)

用意するもの

プロトコル

Day 10

  1. 2 mLのSTEMdiff™ Cerebral Organoid Supplement Eを98 mLのSTEMdiff™ Cerebral Organoid Basal Medium 2に添加し、Maturation Mediumを調整します。
  2. 5 mL または10 mL 血清用ピペットを最低速度で用い、オルガノイドが入っているウェルの培地を注意深く除去します。Matrigel®に埋め込まれたオルガノイドを崩さないようにします。
  3. Maturation Medium 3 mLを添加して培地を交換します。
  4. オルガノイドの入ったプレートを、37℃インキュベーターに設置したオービタルシェーカーにセットします。INFORS HT社の Celltron orbital shakerの場合には、Table 1に従って振とう速度(rpm)を設定してください。他のオービタルシェーカーモデルの場合には、下記の等式を用いてrpmを算出してください。

    Table 1.様々な培養器におけるINFORS HT社の Celltron orbital shakerの推奨振とう速度
    Cultureware* Volume of Medium (mL) Recommended Shaker Speed (rpm) Relative Centrifugal Force (RCF)† (g)
    6-well plate 3.0 65 0.11808
    60 mm dish 3.0 65 0.11808
    12-well plate 1.5 85 0.20194
    24-well plate 1.0 100 0.27950
    *オルガノイドの培養には6ウェルまたは12ウェルプレートが最適です。
    †25 mm INFORS HT Celltronの振とう径を用いて計算しています。
    神経オルガノイドの培養1-2.jpg

    ここで:
    rpm = 振とう速度(1分間あたりの回転数)
    RCF = 相対遠心力(g), Table 1で各種の培養器における値を記載しています。
    throw = 振とう径(mm)。シェーカーのメーカーにより決まっている値です。

  5. 下記の手順で3-4日毎に培地交換(全量交換)をおこなってください:
     a. 培養器を傾けます。
     b. 5 mLの血清用ピペットを最低速度で用い、ゆっくりと培地を除去します。
     c. 新しいMaturation Mediumを各ウェルに3 mL添加します。
     d. プレートを37℃インキュベータ内のオービタルシェーカーに戻します。
  6. 大脳オルガノイドは増殖を続け、30日間 Maturation Mediumで培養する事で直径約3-4 mmのサイズになります。
     ・Day 10: オルガノイドは、神経上皮細胞の増殖を表す、出芽したような形態を示すようになります。
     ・Day 15: 増殖した神経上皮細胞の芽状の構造は融合し、オルガノイドは中心に細胞が詰まった稠密な構造をとるようになります。
     ・Day 20: オルガノイドは直径750 µm以上になります。小さなロゼット状の構造が見られることがあります。
     ・Day 30: オルガノイドは直径1 mmを超える大きさとなり、層状の構造が見られる稠密なコアをもつようになります。
     ・Day 40: オルガノイドは直径3-5 mm程度の大きさとなります。この時点でオルガノイドの中央は非常に稠密になるために暗く見えるようになり、表層構造を維持しています。正しく形成されていないオルガノイドでは透明な嚢胞がみられ、その大きさはDay 40の時点で1 mmに到達しません。この時期になると通常は、PAX-6陽性神経前駆細胞を含んだ表層を、TUJ-1陽性のニューロンとは別個に脳室構造中央の内側に確認できるようになります。
  7. 大脳オルガノイドはDay 40以降もSTEMdiff™ Cerebral Organoid Maturation Kit を用いて培養を続ける事が可能です。

参考文献

  1. Lancaster et al. (2013) Cerebral organoids model human brain development and microcephaly. Nature 501(7467): 373–9.
  2. Lancaster et al. (2014) Organogenesis in a dish: modeling development and disease using organoid technologies. Science 345(6194): 1247125.

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