ラーニングコーナー
2020/03/25
話題の「免疫代謝」研究をサポート!ウェビナー・文献・製品のご紹介
- 細胞分離
2013~2019年の間で年間論文数が10倍以上増えている※1「Immunometabolism(免疫代謝)」をご存知でしょうか。生体および細胞の代謝経路と免疫応答のダイナミックな関係を理解しようとする免疫学の研究分野です。近年注目が集まるがん免疫療法とも深くかかわるこの分野の情報をご紹介します。
※1 PubMedでImmunometabolismを検索した結果より。
免疫代謝とは
新しい研究分野
Immunometabolism(免疫代謝)は、伝統的な免疫学と代謝の境界領域を研究する分野として近年さかんになってきました。たとえば、免疫とは無関係にも見える肥満は免疫系に影響を及ぼし炎症を促進します。このことは2型糖尿病、心臓病、がん、神経変性など多くの慢性疾患への感受性を高めます。一方で、代謝が白血球とリンパ球の挙動を制御することもわかっています。免疫応答と代謝のクロストークを分子レベルで解明することが、今や非常に重要なテーマです。(参考文献1)
主要な代謝経路
免疫代謝の研究によって、免疫細胞の活性化における細胞内代謝経路の変化が明らかになってきました。詳細に調べられた6つの主要な代謝経路は、解糖系、トリカルボン酸(TCA)サイクル、ペントースリン酸経路(PPP)、脂肪酸酸化(FAO)、脂肪酸合成(FAS)、アミノ酸代謝です。T細胞、マクロファージなどでは活性化に応じて代謝経路が切り替わり、サイトカイン産生や細胞増殖、あるいは長期生存や免疫抑制といった免疫応答へとつながります。(参考文献2)
がんと免疫代謝
がん細胞は代謝が非常に活発で、腫瘍微小環境に応じて変化させられることが知られています。また、がん細胞は腫瘍浸潤リンパ球(TIL)の代謝にも影響を与え、免疫応答を抑制することで自らの生存を維持します。がん免疫療法では、免疫細胞ががん細胞をいかに効率よく抑えられるかが成功を左右しますので、がん組織の免疫代謝研究はがん免疫療法にとって重要性を増しています。(参考文献3)
参考文献
1. Mathis D, Shoelson SE. (2011) Immunometabolism: an emerging frontier. Nat Rev Immunol, 11(2):81
2. O’Neill L A J et al. (2016) A guide to immunometabolism for immunologists. Nat Rev Immunol, 16 (9), 553-65
3. Singer K et al. (2018) Immunometabolism in cancer at a glance. Dis Model Mech, 11 (8)
注目のウェビナー
免疫代謝―T細胞の分化と機能の代謝制御
(動画の視聴にはSTEMCELL Technologies社ホームページへのログインが必要です)
演者
Mauro Corrado博士(Max Planck Institute of Immunobiology and Epigenetics)
講演内容
ミトコンドリア代謝はどのようにCD8+ T細胞免疫応答を形成するか?
5:00~ 演者と内容の紹介。5:50~ 講演。2019年開催DGFI / SIICAでの免疫代謝シンポジウムより収録されました。
関連文献
・Buck MD, O'Sullivan D, Klein Geltink RI, et al. (2016) Mitochondrial Dynamics Controls T Cell Fate through Metabolic Programming. Cell. 166(1):63–76.
・Klein Geltink RI, O'Sullivan D, Corrado M, et al. (2017) Mitochondrial Priming by CD28. Cell. 171(2):385–397.
注目の文献と製品
免疫代謝に関する論文と、細胞分離に使用されたEasySep製品をご紹介します。
エフェクターT細胞が卵巣がんの間質を介した化学療法抵抗性を抑制
Wang W et al. (2016). Effector T Cells Abrogate Stroma-Mediated Chemoresistance in Ovarian Cancer. Cell 165(5): 1092-1105.
概略
養子細胞療法は現在、がん治療の未来としてさかんに宣伝されています。腫瘍微小環境に入ることのできるT細胞は、炎症シグナルと腫瘍細胞の排除を促進することができます。しかし、T細胞が腫瘍微小環境の他の構成要素とどのように相互作用し、化学療法など他の治療形態の有効性にどのように影響するかはまだ不明です。
線維芽細胞は、腫瘍の進行を促進させる腫瘍微小環境の主要な構成要素です。興味深いことに、この研究は、線維芽細胞が腫瘍細胞における白金の核蓄積を減らすことによって、シスプラチンなどの白金ベースの化学療法薬に対する耐性を促進しうることを示しました。この効果は、線維芽細胞のシステイン代謝産物によって媒介されます。さらに、エフェクターT細胞は、炎症性サイトカインIFN-γの産生を介して線維芽細胞のシステイン代謝を阻害し、それにより化学療法抵抗性に対する線維芽細胞の効果を打ち消すことを示しました。その結果、T細胞療法は腫瘍細胞を直接排除するだけでなく、従来の化学療法剤に対する腫瘍細胞の感受性を高める可能性があります。
細胞分離製品
EasySep™ Human CD8+ T Cell Isolation Kit(ST-17953)
免疫療法による肥満関連インスリン抵抗性の正常化
Winer S et al. (2009) Normalization of obesity-associated insulin resistance through immunotherapy. Nat Med 15(8): 921-929.
概略
肥満マウスの内臓脂肪組織では、IFN-γを分泌するCD4+ T細胞が増加し、制御性T細胞(Treg)の割合が減少していることが示されました。興味深いことに、リンパ球欠損Rag1-/-マウスは、食餌誘発性肥満の結果として代謝機能障害が悪化し、CD4+ T細胞の養子免疫移植によって回復したことから、CD4+ T細胞の保護的役割が示唆されました。さらに、CD3特異抗体またはそのF(ab’)2フラグメントの投与といった、脂肪組織のTregの割合を増加させる治療は、肥満関連インスリン抵抗性を正常化できました。この研究は、炎症を抑える免疫療法戦略が肥満関連インスリン抵抗性に対して効果的であることを示唆しています。この研究に続き他のグループは、肥満におけるTregおよび他の細胞型の役割についてさらに詳述しました(図1)。
肥満関連炎症について、さらに詳しくはこちら。
細胞分離製品
EasySep™ Mouse CD4+ T Cell Isolation Kit(ST-19852)
EasySep™ Mouse CD8+ T Cell Isolation Kit(ST-19853)
図1 肥満関連脂肪組織の炎症における免疫制御の欠損
(A)痩身脂肪組織には、炎症促進性免疫細胞(赤)を抑制するTregなどの調節性免疫細胞(青)が含まれています。(B)対照的に、肥満脂肪組織には、TNF-αなどの炎症性サイトカインを大量に産生するM1マクロファージなどの炎症促進性免疫細胞が浸潤しています。
出典:Han JM and Levings MK (2013) J Immunol 191(2):527-532, Copyright 2013. The American Association of Immunologists, Inc.
EasySepについて
簡単、迅速にあらゆる細胞を分離できる免疫磁気分離キットです。カラムフリーなので、細胞にも分離操作にもストレスがありません。詳しくは以下よりご覧ください。
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