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注目の製品情報

2022/06/08

ついにヒト肺胞のin vitroモデルが作製可能に!

  • 用途別細胞培養

ヒト肺のin vitroモデルとして一般的に用いられる気液界面(Air-Liquid Interface:ALI)培養は多くのアプリケーションに有用ですが、ガス交換の場である肺の遠位領域(呼吸域)のモデル化には適していません。
STEMCELL Technologies社の「PneumaCult™ Alveolar Organoid Media」を用いた3次元の肺胞オルガノイド培養によって、従来の課題を克服し、in vitroで適切な遠位肺モデルを実現できます。

本稿では、「PneumaCult™ Alveolar Organoid Media」の特長や、作製したヒト肺胞オルガノイドの解析データを紹介します。

PneumaCult™ Alveolar Organoid Media とは?

製品の特長

PneumaCult™ Alveolar Organoid Media(ExpansionおよびDifferentiation Medium)は、ヒト肺胞上皮細胞からオルガノイドを効率よく成長、増殖、分化させる培地製品です。肺胞オルガノイドは従来の動物モデルとは異なり、ヒト生体内の肺胞における部位特異性を模倣しています。
この便利な培養系を用いることで、ヒトII型肺胞上皮(ATII)細胞を長期間にわたりオルガノイドとして増殖させることができます。ATIIオルガノイドは凍結保存およびI型肺胞上皮(ATI)細胞への分化が可能です。
肺胞オルガノイドはヒト肺胞のin vitroモデリング、感染症、薬剤スクリーニングなどの研究用途に最適です。

  • in vivoのATIIおよびATIの重要な機能を再現し、ヒト肺胞生理学の3次元モデル化を実現
  • ATIIオルガノイドの継代と長期増殖をサポートし、初期サンプルからの収量を最大化
  • 凍結保存・培養再開が可能
  • 成熟ATIIと完全分化ATIを樹立する、便利で使いやすい仕様
  • 組成が最適化され、品質管理試験済みの標準化培地

対象分野、アプリケーション

  • 肺胞の生理学
  • 肺胞の損傷修復、再生、肺胞幹細胞
  • 肺がん
  • 慢性閉塞性肺疾患(COPD)
  • 急性呼吸窮迫症候群(ARDS)
  • 特発性肺線維症(IPF)
  • α1-アンチトリプシン欠乏症(AATD)
  • 感染症、コロナウイルス
  • バイオバンク
  • スクリーニング

使用方法

肺胞オルガノイドの作製および分化

【1】増殖段階: 単離または凍結保存した初代ヒトATIIシングルセルを、PneumaCult™ Alveolar Organoid Expansion (AvOE) Seeding Mediumに播種します。2-3日目に培地をPneumaCult™ AvOE Mediumに交換して増殖し、成熟したATIIオルガノイドを作製します。

【2】分化段階: ATIIオルガノイドをさらに10日間、PneumaCult™ Alveolar Organoid Differentiation (AvOD) Mediumで培養し、ATIオルガノイドを作製します。

Av-organoid-fig1.jpg

使用方法の詳細はこちら:Technical Manual(英語)

肺胞オルガノイドから単層培養への移行

PneumaCult™ AvOE Mediumを使用して、ATIIオルガノイドから単層培養(液内またはALI)に移行します。

100-0847_monolayer.png

詳細なプロトコルはこちら(STEMCELL Technologies社ウェブサイトへリンク):
How to Generate Alveolar Monolayers from ATII Organoids

PneumaCult™ Alveolar Organoid Media データ紹介

肺胞オルガノイドの形成率

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オルガノイド形成率(OFE)は、オルガノイド培養の健全性と培地性能の尺度になります。ATIIオルガノイドはPneumaCult™ Alveolar Organoid Expansion Mediumで増殖しました(ドームあたり160個の細胞を播種)。
(A)4倍の対物レンズを用いて9日目に撮影した明視野画像。ドーム全体を画像に取り込み、形成されたオルガノイドの数を計測しました(合計44; OFE = 27.5%)。
(B)3名の異なるドナーに由来するATIIオルガノイド培養物のOFEを示す棒グラフ(平均値± SD)。
OFE =(形成されたオルガノイド数/播種した細胞数)x 100%。

 

バイオバンキングのための長期培養と凍結保存

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(A)PneumaCult™ Alveolar Organoid Expansion Medium(橙色)および既知組成(灰色)で増殖したオルガノイドの各継代(n = 4の独立ドナー)での累積倍加の箱ひげ図。平均値を線でつなげています。両方の培地で、肺胞オルガノイドの長期継代と10,000倍以上の増殖が達成されました。
(B)初期および後期の継代で予め凍結保存した細胞から生成し、PneumaCult™ Alveolar Organoid Expansion Mediumで増殖したオルガノイドの集団倍加(平均値±SD)を示す棒グラフ。オルガノイドは解凍後も増殖能を維持していました。

 

ATIIおよびATI細胞マーカーの発現を高いレベルで維持

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(A)HT2-280およびHT1-56マーカーのFMOコントロール(上段)、PneumaCult™ Alveolar Organoid Expansion Mediumで増殖したオルガノイド(中段)、およびその後PneumaCult™ Alveolar Organoid Differentiation Mediumで分化したオルガノイド(下段)に由来する染色細胞に対するフローサイトメトリーのゲーティング。PneumaCult™ Alveolar Organoid Expansion Mediumは、ATIIマーカーの発現(HT2-280)と、PneumaCult™ Alveolar Organoid Differentiation Medium中でのATIへの系統分化能(HT1-56)の両方を維持します。
(B)高レベルのHT2-280を発現するドナー4名に由来するオルガノイドを、PneumaCult™ Alveolar Organoid Expansion Mediumまたは既知の組成で培養し、各継代で発現を比較しました。破線は開始時HT2-280 ++%の50%を示しています。
(C)同一ドナーのP0とP5間でHT2-280発現の変化率を示す散布図。PneumaCult™ Alveolar Organoid Expansion Mediumで培養したオルガノイドは、既知組成で培養したオルガノイドと比較して、より高いレベルのHT2-280マーカー発現を維持しました。平均値を実線で示しています。* = 対応のある片側T検定でp<0.05(n = 4)。

 

免疫組織化学によるATIIおよびATI細胞マーカーの発現確認

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(A)PneumaCult™ Alveolar Organoid Expansion Medium(上段)で増殖したドナー3名に由来するオルガノイドは、ATIIマーカーであるHT2-280(緑色)およびプロ肺サーファクタントタンパク質C(プロSPC、黄色)を発現します。PneumaCult™ Alveolar Organoid Differentiation Medium(下段)でさらに分化すると、ATIIマーカーの発現は減少し、ATIマーカーであるRAGE(赤色)の発現が上昇します。
(B)分化したオルガノイドはATIマーカーのGPRC5a(黄色)も高レベルに発現します。

 

SARS-CoV-2侵入の主要マーカー TMPRSS2とACE2を発現

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PneumaCult™ Alveolar Organoid Expansion Medium(上段)で増殖し、PneumaCult™ Alveolar Organoid Differentiation Medium(下段)で分化したドナー3名に由来するオルガノイドは、SARS-CoV-2侵入に関連するタンパク質であるTMPRSS2およびACE2を発現しました。ACE2はすべてのドナーと条件で発現しましたが、TMRPSS2の発現はドナーに依存していました。

 

遺伝子発現解析による肺胞マーカーの確認

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PneumaCult™ Alveolar Organoid Expansion Mediumで増殖後PneumaCult™ Alveolar Organoid Differentiation Mediumで分化したオルガノイドと、既知の組成で培養したオルガノイドの遺伝子発現を、正規化した遺伝子発現ヒートマップにより比較しました。標準的なATIIおよびATI遺伝子、ならびにSARS-CoV-2の主要侵入マーカーであるACE2およびTMPRSS2の存在を示しています。コントロールとして、初代肺胞上皮細胞(ATIおよびATII細胞を含む、Mikami et al. 2021, GSE186359)および初代ATII細胞(Jacob and Kotton. 2017, GSE96642)の公開されたRNA-Seq遺伝子発現データセットを使用しました。

 

肺胞オルガノイド由来ATII細胞の単層移行と最適培養条件検討

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2段階のプロトコルによって、II型肺胞(ATII)細胞を細胞培養インサート上で気液界面(ALI)培養しました。はじめに個別のドナー2名由来のATII細胞をPneumaCult™ Alveolar Organoid Expansion (AvOE) Mediumに播種し、10日間オルガノイド培養しました。次いでシングルセルを回収し、ECMコーティング済みインサートに播種して7日目または14日目まで培養しました。うち、ALI移行は4日目に行い、(C, D)3日間または(G, H)10日間培養しました。細胞は4% PFAで膜上に固定し、ATII特異的マーカーHT2-280(緑)、ならびにATI特異的マーカーRAGE(赤)およびGPRC5a(マゼンタ)で染色し、DAPI(青)で対比染色しました。両ドナーとも、(A, B)液内および(C,D)ALIで7日間培養すると、HT2-280が発現し、RAGEが若干発現し、GPRC5aはほとんど発現しませんでした。(E,F)追加の7日間、液内培養で増殖すると、HT2-280の減少とRAGEの増加が見られ、ATI細胞への分化を示しました。(G, H) 追加の7日間、ALIで増殖すると、HT2-280は若干減少しましたが液内培養時より発現が安定しました。
このデータから、ATII細胞の細胞培養インサート上での理想的な培養条件は(C, D)7日間(うちALIで3日間)であることが示唆されました。ただし、これらの培養はATIIマーカーの損失を最小限に抑えながら、最大14日間(うちALIで10日間)まで維持できることも示唆されました。
注:スケールはXY図とZX図で同じです。

 

肺胞オルガノイド由来ATII細胞の単層移行時のマーカー発現変化

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個別のドナー3名由来のATII細胞をオルガノイドドームからECMコーティング済み細胞培養インサートに播種し、7日目まで培養しました。フローサイトメトリーによる生細胞シングレットの割合から、ATIIマーカーHT2-280とATIマーカーHT1-56の発現を決定しました。
データは、肺胞細胞を細胞培養インサート上で培養した場合、オルガノイド培養と比較してHT2-280高陽性発現はわずかに減少するが有意ではなく、HT1-56高陽性発現は有意に増加する(ANOVA with Dunnett post hoc test、** = p < 0.01; n = 3)ことを示しています。ALI(3日間)と常時液内培養では、HT2-280、HT1-56いずれの発現にも差はありませんでした。記号は、各条件を通して異なるドナーを表しています。

 

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