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2017/09/20
ヒト多能性幹細胞から「ミニ大脳」への分化・成熟培地
- 用途別細胞培養
ヒト多能性幹細胞(ヒトES/iPS細胞、hPSC)から "ミニ大脳" 大脳オルガノイドを作製するための、無血清培地キット「STEMdiff Cerebral Organoid Kit」についてご案内します。
「大脳オルガノイド」のための培地とは
「大脳オルガノイド」のための培地開発 背景
モデル生物での問題点
ヒト脳の能力や機能を完全に解明することは、多くの神経生物学者の夢です。従来から、神経科学分野では実用的・倫理的理由でモデル生物(主に齧歯類)が広く使われています。しかし、脳の構造および発達は齧歯類とヒトの間で大きく異なり、これらの動物モデルでは、ヒトの神経疾患や脳発達を完全に解明するものではない可能性があります。
ヒト大脳オルガノイドの研究へ
そこで、ヒト多能性幹細胞から神経細胞をはじめ様々な細胞へ分化させる研究が進み、さらに3次元的にin vitroで作製された“ミニ臓器”(オルガノイド)の研究へと発展しています。オルガノイドは、動物モデルでは不可能なヒトの発達および疾患モデル研究分野での利用が大いに期待されています。STEMCELL Technologies社から、ヒト多能性幹細胞から大脳オルガノイドを、4段階の簡単なプロトコールで作製可能な無血清培地「STEMdiffTM Cerebral Organoid Kit」が2017年より販売されています。大脳オルガノイド作製プロトコールを確立したLancasterらの論文(1、2)を基に、さらにオルガノイドの形成効率と再現性を高めるように最適化されています。
- Lancaster, et al (2013). Cerebral organoids model human brain development and microcephaly. Nature, 501(7467), 373–9.
- Lancaster, M.A, & Knoblich, J.A. (2014). Generation of cerebral organoids from human pluripotent stem cells. Nature Protocols, 9(10), 2329–2340.
「STEMdiff Cerebral Organoid Kit」の特長
- ヒト化モデル:ヒト多能性幹細胞に基づくモデルにより、動物モデルでは不可能な発達および疾患モデル研究を実現
- 脳の発達を再現:3次元in vitro培養系により、ヒト大脳の発達過程、細胞組成および構造的組織を再現
- 無血清培地:大脳オルガノイド形成効率を高めるために最適化された無血清培地
- 少ないロット間差:徹底的な原料のスクリーニングと、広範な品質管理試験で再現性を保証
- 簡便性:シンプルなフォーマットと簡便なプロトコール
- コンプリートキット:培地を調製する手間と時間を削減
操作概要
STEMdiff Cerebral Organoid Kitによる大脳オルガノイド作製
STEMdiff Cerebral Organoid Kitは、ヒト多能性幹細胞(hPSC)から大脳オルガノイドを、4段階の簡単なプロトコールで作製します。胚葉体(EB)の形成から大脳オルガノイドの成熟までをサポートする、all-in-oneのキットとして提供されます。
データ例
様々なヒト多能性幹細胞株で大脳オルガノイドを形成
STEMdiff Cerebral Organoid Kitは、ヒト多能性幹細胞株の種類を選びません。
(A):大脳オルガノイドへの誘導から増殖段階における位相差顕微鏡像。スケールバー:300 µm。
(B)-(D):培養40日後の大脳オルガノイドに対し、神経細胞関連マーカーで標識。例えば、神経前駆細胞マーカーであるPAX6+、SOX2+細胞は、どの細胞株由来のオルガノイドでも脳室帯(ventricular zone)に局在しています。スケールバー:200 µm。
ヒト大脳の構造を再現
STEMdiff Cerebral Organoid Kitで培養したヒト大脳オルガノイドは、ヒト大脳の構造を再現します。
(A)STEMdiff Cerebral Organoid Kitで40日間培養後に形成された、ヒト大脳オルガノイド全体の位相差画像例。この段階での大脳オルガノイドは、層状構造の薄くて半透明な領域(△印)に囲まれた暗位相構造になっています。
(B)大脳オルガノイドの凍結切片に対し、未分化型神経前駆細胞マーカー(PAX6;赤)およびニューロンマーカー(β-チューブリンIII;緑)で大脳オルガノイド内の皮質領域を免疫組織学的に標識したものです。(C - F):(B)の点線領域を拡大。
(C)PAX6+未分化型神経前駆細胞(点線で囲まれた赤の部分)は、脳室帯(ventricle)に局在し、β-チューブリンIII+ニューロン(緑)は、脳室帯に隣接しています。
(D)大脳皮質の発生期に形成される皮質板(cortical plate)マーカーであるCTIP2(赤)は、β-チューブリンIII +ニューロン(緑)と共局在します(黄)。ヒト脳の発達段階で観察される、早期皮質形成を再現しています。
(E)細胞分裂マーカーKi-67+増殖前駆細胞(緑)は脳室帯に沿って局在しています。対比染色として核(DAPI;青)を染色。
(F)霊長類の大脳皮質形成に特に重要な役割を果たすとされる、外室脳室下帯(outer subventricular zone;OSVZ)にもKi-67 +細胞の集団が認められます(△印)。スケールバー:(A)1mm、(B)500μm、(C-F)200μm。