研究者の声
2019/04/05
iPS細胞を用いた大脳オルガノイドの解析にベリタス取扱製品を使用 研究者の声【11】
- 用途別細胞培養
研究者紹介
市島 ホセ 先生
京都大学iPS細胞研究所 臨床応用研究部門 疾患再現研究分野 斎藤潤研究室
日本学術振興会特別研究員(DC2)
※ 所属や役職等は掲載当時のものです
略歴
2014年 横浜市立大学国際総合科学部 卒業
2016年 京都大学大学院医学研究科医科学専攻修士課程 修了
2019年 京都大学大学院医学研究科医科学専攻博士後期課程 修了見込
研究内容
私は大脳皮質の形成機構を解析し、神経発達障害の病態を明らかにすることを目的として、健常者由来iPS細胞や患者さん由来iPS細胞を用いて作製した大脳オルガノイドの解析を行っております。
インタビュー
1.STEMdiff Cerebral Organoidを用いてどのような研究を行っていらっしゃいますか?
ヒトの大脳皮質形成期をin vitroで再現する系の検討に用いました。
STEMdiff Cerebral Organoidは従来の自家調整方法と同程度にオルガノイドの作製が可能でした。
そこで、従来方法から何も変更することなく研究を行うことができました。
2.オルガノイド研究は今後どのような方向に向かっていくと考えられますか?
今後の大脳オルガノイドを用いた研究は他のオルガノイド系と同様に急速に発展しています。
これからもこの技術が病因の不明な疾患のモデル化、新薬のスクリーニングにつながっていくことを期待します。
3.STEMdiff Cerebral Organoidを使われてどのように感じられましたか?
培地の調整をする必要がなく、個々に試薬を調整するよりも本キットを使うことでロットの差が少なく、
効率よくオルガノイドの作製につながりました。
研究結果
培養40日目に神経前駆細胞がロゼット様構造の中心で分裂し、その後分化して移動した神経細胞がロゼット様構造外に存在している様子を確認できました。
また、培養60日目まで維持可能であり、この期間もオルガノイドサイズが増大しました。
研究方法
- D0 健常者株iPS細胞を回収し、低接着丸底ボトム96ウェルプレートに9000細胞/1ウェルの密度でEB Seeding Mediumに懸濁、胚様体を作製しました。
- D5 胚様体をInduction mediumの入っている低接着平底ボトム24ウェルプレートに移し、神経誘導を促進しました。
- D7 胚様体をMatrigel中に包埋し、Expansion Mediumに移しました。
- D10 振盪培養用シェーカーに胚様体を移し、Maturation Medium に培地を変えて80rpmで振盪培養を開始しました。
- D40 形成したオルガノイドの内部構造を解析するために、オルガノイドを4%PFAで固定し、30%スクロースによって一晩脱水させました。その後凍結切片を作製し、免疫染色法でオルガノイドの内部構造を観察しました。
研究結果
オルガノイド形成過程での形態的変化
1日後に胚様体が形成され、徐々に胚様体が大きくなりました。
また、Matrigel中に包埋した培養9日目に胚様体にbudding構造が見られ、この構造も時間とともに大きくなりました(図1)。
図1:胚様体形成からオルガノイド形成過程の位相差顕微鏡像。
(培養1-5日後 スケールバー:200 μm、培養9-16日後 スケールバー:400 μm)
培養40日目のオルガノイドの内部構造観察
培養40日目のオルガノイドサイズは2mm以上にもなりました(図 2a)。
オルガノイドの切片作製し、免疫染色法での細胞マーカーを確認したところ、神経前駆細胞マーカーであるSOX2の陽性細胞が内側に位置し、分化した神経細胞であるTUJ1陽性細胞がオルガノイド辺縁部に存在していることが観察できました。
また、分裂途中の神経前駆細胞マーカーであるPhospho Vimentinの陽性細胞が脳室帯様構造の中心に局在しており、他にも若い神経細胞であるDCX陽性細胞はオルガノイドの辺縁部に観察されました。
図 2:培養40日目のオルガノイド
a. 位相差顕微鏡像。スケールバー:1 mm
b. 凍結切片の免疫染色法、対比染色としてDAPI(青)を使用。スケールバー:200 μm
【関連論文】
- Lancaster, et al (2013). Cerebral organoids model human brain development and microcephaly. Nature, 501(7467), 373-9