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研究者の声

2020/03/26

妊娠を左右する遺伝子の発見!! 発見の経緯とDynabeads使用のメリットとは? 研究者の声【20】

今回ご紹介する研究室では高等動物の減数分裂における染色体構築とその制御のメカニズムについて研究をしています。
最近では減数分裂の開始に決定的な役割を担う新規の転写活性化因子MEIOSINを同定しております(Ishiguro et al, Dev Cell 2020)。
現在は体細胞分裂から減数分裂への切り替え制御に関する研究を精力的に行っています。
また、こちらの研究室では、このような研究内容に興味のある大学院生、ポスドクの参加をお待ちしているとのことです。
今回は独立准教授の石黒先生にMEIOSINの発見の経緯についてご解説いただきました。

【研究者紹介】

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熊本大学 発生医学研究所 染色体制御分野

石黒 啓一郎 独立准教授

※ 所属や役職等は掲載当時のものです

論文:
Ishiguro K, Matsuura K, Tani N, Takeda N, Usuki S, Yamane M, Sugimoto M, Fujimura S, Hosokawa M, Chuma S, Ko S.H.M, Araki K, Niwa H : MEIOSIN directs the switch from mitosis to meiosis in mammalian germ cells. Dev. Cell 52(4), 429-445(2020)

記事一覧:

【論文紹介】

ES細胞でレチノイン酸によって誘導されるSTRA8と呼ばれるタンパク質が1996年に見つかっていました。
STRA8には特に機能を予測できる特徴のあるドメインやモチーフが見当たらないため正体不明とされていましたが、
2006年にSTRA8欠損マウスで減数分裂を正常に進行できないという報告がありました。
これはSTRA8が減数分裂で何らかの大事な役割をしていることを示唆するものでしたが、依然減数分裂開始のメカニズムは不明でした(図1)。
そもそも生物学の基本現象でありながら、体細胞分裂から減数分裂に切り替わるメカニズムはどの生物種でもわかっていない状況から、石黒先生はこの問題に取り組むことにしました。
まず石黒先生のチームはSTRA8に結合する因子をマウス精巣から精製することを計画しました。
マウス精巣からIPを行い、MS解析により結合因子を探索しました。その結果、STRA8タンパク質と結合する因子Gm4969を新規に同定し、Meiosis initiator (MEIOSIN)と名付けました(図2)。
ゲノム編集により、これを欠損させると精巣や卵巣が萎縮して、雄雌ともにMEIOSIN 欠損マウスは不妊を示すことが判明しました(図3)。
さらにMEIOSIN 欠損マウス精巣・卵巣では、細胞周期の維持に関与する体細胞型Cyclinの異所的発現やM期様染色体構造など体細胞様の特徴を示す細胞の蓄積を伴って、体細胞分裂から減数分裂への切替えが見られなくなりました。
事実、MEIOSIN 欠損マウスのRNA-seq解析からも多くの減数分裂関連遺伝子群の発現低下が見られました。
MEIOSINタンパク質はHLHドメインとHMG-likeドメインを持つことから、DNA結合因子として働くことが予想されました。
そこでChIP-seq解析を行って、MEIOSIN のゲノム上での結合位置について検討しました。その結果、MEIOSINはSTRA8と複合体を形成して減数分裂関連遺伝子の活性化に働くマスター転写因子であることが明らかとなりました(図4)。
したがってMEIOSINは体細胞分裂から減数分裂へのスイッチとしての役割を果たしていることが示されました(図5)。
なお、MEIOSINによって直接制御される標的には多くのhypothetical geneが含まれることがわかりました。これらMEIOSINの転写制御下に置かれている未解析の遺伝子には、減数分裂の進行に必要とされる未知のものが含まれる可能性があります。
今後は、減数分裂の制御を支える新規遺伝子の解析を行って体細胞分裂との違いを本質的に決定付ける減数分裂制御のメカニズムの全容解明を目指していくとのことです。

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【Dynabeadsの活用事例】

STRA8に対するラビット抗体をDMPで架橋したDynabeadsを使って、マウスの精巣抽出液からSTRA8タンパク質をIPしました。この沈降物のMS解析によりGm4969というhypothetical遺伝子(ゲノムデータベース上にIDのみが付与されている機能不明遺伝子)にコードされる因子を同定しました。
さらにMEIOSINやSTRA8に対する抗体とDynabeadsを使ってChIP-seq解析を行いました。その結果、MEIOSINとSTRA8が減数分裂関連遺伝子のTSS近傍に結合する転写因子であることを明らかにしました。

【Dynabeadsを選んだ理由と目的】

普段Protein A (またはG) Dynabeadsに抗体をconjugateしてIPに使っています。
当研究室では、これを使ってIP-MS解析をよく行っています。Protein A (またはG)-sepharoseに同じ抗体をconjugateして同様にcrude extractsからIPした場合とを比較すると、MS解析の結果はDynabeadsにconjugateしたものの方がバックグラウンドの出方が少なく高いS/N比が得られることを経験しています。
同じ抗体量をconjugateしたものであっても、Dynabeadsの方がタンパク質の非特異的吸着が少ないためと推定されます。また抗体をconjugateしたDynabeadsは使用後もGlycine (pH2.5)で洗浄して、0.1% NaN3を含むPBSに懸濁して冷蔵保存しておけば何度も再利用できるので、大事に使えば抗体を無駄にすることなくコストを抑えて研究に利用できます。
ChIP-seqでもDynabeadsを使っています。sepharoseタイプと比べて核酸のbackgroundが軽減されます。ChIPでは比較的厳しい塩濃度や界面活性剤存在下の緩衝液で洗浄しますが、核酸の非特異的吸着によるバックグラウンドはやはりDynabeadsの方が低く抑えられています。
これはsequenceのライブラリ作製の際に、バックグラウンドに由来する高分子DNA断片の寄与を抑える上で重要と思われます。
さらにsepharoseタイプは洗浄、遠心、溶出の各ステップにおけるピペットチップへの吸い込みやロスが避けられないことがあるのに対して、Dynabeads はmagnetを使う手軽さからも実験が安定しています。

【Dynabeadsを使用しての感想】

Magnetで回収ができる使い勝手の良さと非特異的吸着の少なさから様々な場面でDynabeadsを選んでいます。
筆者がDynabeadsと巡り会ったのは実に25年ほど前の大学院生の頃でした。
当時は免疫グロブリンの組換え酵素RAG1/RAG2とbiotin化DNAの複合体をDynabeadsで回収するというものでした。DNAはさらに32PでRIラベルされていたので、チューブ内の反応液を汚染・飛散させずにmagnetで安全かつ手軽に結合、洗浄、溶出できるDynabeadsは必須の研究アイテムでした。
筆者はその後米国・ボストンでポスドクをしていたのですが、そこでは培養細胞の表面抗原に対する抗体を使ってソートする目的でもDynabeadsをよく使っていました。
レトロウイルスやレンチウイルスを感染させた細胞を使うことがあったので、T-flaskを板チョコレート型のmagnet板で挟み込んで、培地を飛散することなく細胞-表面抗原-抗体を Dynabeadsで分離できたので、FACSに持ち込むほどの煩わしさもなく頻繁に手軽に使っていました。
筆者は現在もなおタンパク質複合体のIP-MSやChIPでDynabeadsを頻繁に利用しています。その理由はやはりタンパク質や核酸の非特異的吸着が少ないと言う点にあります。最近はエピトープタグに対する抗体を予めconjugateしたMagnetic beadsタイプの市販商品が出ていますが、なんと言っても自分の好きな抗体を自在にDynabeadsにconjugateして使うことができるので研究の自由度を制限することなく使っています。

【プロトコール紹介】

【ご利用いただいた製品】

製品コード 製品名 梱包単位
DB10001 Dynabeads Protein A 1 mL
DB10002 Dynabeads Protein A 5 mL
DB10008 Dynabeads Protein A 50 mL
DB12321 DynaMag-2 1個
DB12303 DynaMag-5 1個
DB12302 DynaMag-50 1個

プロトコール紹介

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