注目の製品情報
2025/07/31
ヒト多能性幹細胞のシングルセル培養には「eTeSR™」
- 用途別細胞培養
eTeSR™は、ヒト多能性幹細胞(human pulripotent stem cell: hPSC、ヒトES/iPS細胞)をフィーダーフリー条件で維持培養するための、安定化された無血清培地です。シングルセルの状態でhPSCを継代し、維持するために最適化されています。eTeSR™は、研究者がhPSCのシングルセル継代を行う際に、細胞収量を増やし、遺伝的安定性も維持できるようにします。
本稿では、eTeSR™の製品特長やデータをご紹介します。
シングルセル継代の課題を解消
ヒト多能性幹細胞(hPSC)のシングルセル継代は、より簡素化されたワークフロー、技術トレーニングの軽減、自動化やスクリーニングアッセイといったアプリケーションへの適合などの点から、日常的な維持管理での採用が広がってきています。
これらの利点にもかかわらず、長期的なシングルセル継代はhPSC培養における遺伝的不安定性の増加と関連付けられており、hPSCの厳格な品質管理措置を講じている研究室はほとんどありません。

eTeSR™の特長
eTeSR™は、hPSCのシングルセル継代に伴う細胞ストレスを軽減するために開発され、hPSCの日常的な維持管理や、アプリケーションに特化したシングルセル培養に利用できます。
従来のTeSR™培地組成1-4を基に、より短い継代スケジュールと高い培養密度をサポートするよう設計されたeTeSR™は、シングルセル継代に伴う代謝需要の増加に対応します。eTeSR™はその主要成分(FGF2など)の安定化、改良された緩衝能、最適化された代謝産物によって、クランプ(細胞塊)継代に最適化された培地と比較して、シングルセル継代において遺伝的安定性が向上した高品質なhPSCを生産できます。
主な特長
- シングルセル継代または高密度培養に伴うストレスを減らしつつ、細胞収量を向上
- 遺伝子編集、クローニング、分化、凍結保存の各プロトコルに適合し、実験のワークフローを完結可能
- 自発分化を回避
- 毎日および制限した給餌スケジュール下で高品質な細胞とパフォーマンスを維持
動画による製品紹介
画像をクリックすると、STEMCELL Technologies社のウェブサイトにリンクします。ウェビナーの視聴には登録が必要です。
Enhancing Genetic Stability in Human Pluripotent Stem Cells Maintained As Single Cells: Introducing eTeSR™
Adam Hirst 博士(STEMCELL Technologies社 シニアサイエンティスト)が国際幹細胞学会/ISSCRでeTeSR™を紹介した講演の録画です。eTeSR™でシングルセルとして維持されたhPSCが、他の市販培地と比較して遺伝的安定性が高いことが確認できます。
(2023年7月公開、収録時間 33分)
eTeSR™のデータ紹介
遺伝的安定性の向上
図1. eTeSR™でシングルセル継代により長期培養したhPSCは、遺伝的安定性が向上する
異なる培地で長期にシングルセル継代して得られたデータ。H1とH9由来の24個の個別のhPSCクローンを自動化システムで20週間、30回継代して培養した。クローンはhPSC Genetic Analysis Kit(ST-07550)を用いて反復性異常をスクリーニングし、その後FISH(20qと12p)で確認した。通常のシングルセル継代で培養したhPSCは、eTeSR™で維持した場合、クランプ継代に最適化された培地と比較して、共通の反復性異常を発現するクローンが著しく少なかった(4% 対 50%)。
【参考】遺伝的安定性に関する学会発表ポスター:
Improved Genetic Stability of Human Pluripotent Stem Cell Cultures Passaged as Single Cells Using eTeSR
細胞増殖の改善
図2. eTeSR™でシングルセル継代により培養したhPSCは、細胞増殖が改善される
4つのhPSC株を、Corning® Matrigel®をコーティングしたプレート上でTrypLE™ Expressを用いて、mTeSR™1、mTeSR™ Plus、eTeSR™のいずれかの培地でシングルセル継代を11回行って培養した。培養は、マニュアルに記載の4-5-5日間の継代スケジュールに従い、mTeSR™ PlusとeTeSR™では制限された給餌、mTeSR™1では毎日の給餌を実施した。eTeSR™でシングルセル継代により維持したhPSCは、mTeSR™1およびmTeSR™ Plusと比較して増殖率が向上した。
詳しくは、以下リンクよりご覧ください。
Data Figures
さまざまなアプリケーションに適合
- hPSCの高効率な遺伝子編集
- hPSCの高効率なクローニング
- hPSCからの分化(STEMdiff™培地を使用):
大脳オルガノイド、前脳および中脳ニューロン、小腸オルガノイド、肝細胞、心筋細胞など - ブタ多能性幹細胞の維持:
プロトコルはこちら
詳しくは、以下リンクよりご覧ください。
Data Figures
eTeSR™のよくある質問
質問をクリックすると回答が表示されます。
なぜSTEMCELL Technologies社は現在、ヒト多能性幹細胞(hPSC)のシングルセル継代も推奨しているのですか?
STEMCELL Technologies社では長年、hPSCを日常的に細胞塊として継代すること(クランプ継代)を推奨してきました。この方法は、多くの異なるhPSC株の長期的な増殖を可能にしつつ、高い細胞品質と期待される核型を維持できるためです。しかし、hPSCのシングルセル継代は、研究者による日常的な維持管理に広く採用されるようになってきています。これは、よりシンプルなワークフロー、技術的トレーニングの軽減、および複数のアプリケーションへの適合を可能にするためです。これらの利点にもかかわらず、長期的なシングルセル継代はhPSC培養における遺伝的不安定性の増加と関連付けられており、これらのhPSCの品質評価のために厳格な品質管理措置を講じている研究室はほとんどありません。
このニーズに対応するため、STEMCELL Technologies社はeTeSR™(ST-100-1215)を開発しました。これは、高品質なhPSCのシングルセル継代をサポートするように最適化された、新たなhPSC維持培地です。
なぜeTeSR™が開発されたのですか?
eTeSR™は、hPSCの維持培地として改良された製品で、hPSCのシングルセル継代を可能にし、細胞収量を増加させながら遺伝的安定性を維持します。長期にわたるシングルセル継代に伴う細胞ストレスを軽減するように開発されており、通常のhPSC維持培養や用途特化型のシングルセル培養に利用できます。既存のTeSR™培地(mTeSR™ Plus(ST-100-0276)など)は、シングルセル培養や高密度培養ほど細胞にストレスのかからない細胞塊での培養(クランプ継代)向けに開発されました。hPSCのクローニングや遺伝子編集のための低密度でのシングルセル播種は、CloneR™(ST-05889)またはCloneR™2(ST-100-0691)を適切に添加すれば、すべての維持用TeSR™培地で実施できます。ただし、eTeSR™で日常的に維持されているhPSCでは、生存率とクローニング効率の向上が観察されています。
なぜシングルセル継代培養でeTeSR™の使用が推奨されているのですか?
シングルセル継代に伴う増加した代謝需要と細胞ストレスに対応するため、eTeSR™には安定化された主要成分(FGF2など)、改善された緩衝能、および最適化された代謝産物が含まれており、クランプ継代用に最適化された既存のTeSR™培地をシングルセル継代維持に使用した場合と比べて、遺伝的安定性が向上した高品質なhPSCを生産できます。eTeSR™は、毎日および制限した給餌スケジュールのどちらにも適合しており、高い細胞品質を維持し、既存のTeSR™培地と同等かそれ以上の性能を発揮します。
eTeSR™は、他のTeSR™培地とどう違うのですか?
eTeSR™は、hPSCのフィーダーフリー培養用培地として最も広く報告されているTeSR™の組成1-4に基づいて開発された製品です。これにより、バッチ間の一貫性と実験の再現性に対する信頼性を提供します。この新しい培地組成は、一般的により短い継代スケジュールと高い培養密度を伴うシングルセル継代をサポートするために特別に開発されました。
参考文献
- Chen G et al. (2011) Nat Methods 8(5): 424–9.
- Ludwig TE et al. (2006) Nat Methods 3(8): 637–46.
- Ludwig TE et al. (2006) Nat Biotechnol 24(2): 185–7
- Beers J et al. (2012) Nat Protoc 7(11): 2029–40.