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研究者の声

2019/08/08

PneumaCult-ALI Medium を用いた気管支3D 培養モデルの作製 研究者の声【12】

  • 用途別細胞培養

研究者紹介

石川 晋吉 様
呼吸器疾患と関連する組織学的変化を再現し得るin vitro モデルの開発
日本たばこ産業株式会社 R&D グループ 製品評価センター

※ 所属や役職等は掲載当時のものです

研究内容

近年、様々な器官や組織の一部をin vitro で再構成した3D培養モデルが開発されています。
3D 培養モデルは主にヒト細胞を用いて作製されることから種差の問題を回避し得ること、また従来の培養モデルと比較してより生体に近いとされることから、基礎研究、毒性評価、再生医療、創薬開発といった幅広い分野で注目されています。

呼吸器についても3D培養モデルの開発が進んでおり、気管支上皮細胞をAir-liquid interface (ALI) 培養することで、線毛細胞や杯細胞が分化した気管支上皮をin vitro で再現できることが知られています。
気管支上皮は異物に対するバリアとしての機能を持つことから、このモデルを用いたin vitro での吸入毒性物質の評価手法の開発が期待されています。
さらに、気管支上皮における組織学的変化は呼吸器疾患において重要であることから、気管支3D 培養モデルを用いた疾患モデルの開発も期待されています。
一方で、呼吸器疾患においては上皮細胞だけでなく間葉系細胞もその病態形成に関与することが知られており、パラクライン因子などを介した上皮– 間葉間での相互作用が重要であることが言われています。
従って、気管支上皮細胞と間葉系細胞とを共培養したin vitro モデルの開発が毒性評価や創薬開発に役立つと考えられます。

これらの背景のもと、気管支上皮細胞と肺線維芽細胞を共培養した3D 培養モデルを作製しました。
この3D 培養モデルが呼吸器疾患と関連する組織学的変化をin vitro で表現し得ることを確認するために、作製したモデルを線維症の誘導因子であるTGF- β 1 で処理しました。
線維症に特徴的な組織学的変化がin vitro で誘導されたかどうか、組織切片を観察することで確認しました。

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図2  気管支3D 培養モデルの分化状態 Acetylated α -tubulin 陽性の線毛細胞、Mucin 5AC 陽性の杯細胞、Cytokeratin 5 陽性の基底細胞が存在することが確認できる。スケールバー: 50 μ m。

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図3 TGF- β1処理による組織像の変化 上皮マーカーとしてE-cadherin, 間葉系マーカーとしてVimentin, 筋線維芽細胞のマーカーとしてα -smooth muscle actin (SMA), 細胞外マトリクスとしてTenascin-C を選択して免疫染色を実施。
矢頭はVimentin 陽性の基底細胞を示す。矢印は基底膜部分でのTenascin-C の強い発現を示す。スケールバー: 50 μm。

3 週間のALI 培養によって線毛細胞、杯細胞、基底細胞が分化した気管支上皮様の構造をin vitroで確認することができました (図2)。
次に、線維症の誘導因子であるTGF- β1を培養液に加えてALI 培養した際の組織状態を確認した。上皮細胞において、上皮マーカーであるE-cadherin の発現が低下すること (図3)、基底細胞において、間葉系マーカーであるVimentin の発現が上昇することが見られました (図3、矢頭)。
これらは上皮間葉転換に特徴的な変化です。また間葉系のレイヤーではVimentin 陽性の線維芽細胞の増加やa-smooth muscle actin を発現する筋線維芽細胞の増加が見られました ( 図3)。
さらに線維症との関連が言われている細胞外マトリックスの一つであるTenascin-C の発現について、in vitro と同様に基底膜部分で強い発現が見られること (図3、矢印)、また、TGF- β1処理によりその発現が亢進している様子も観察することができました (図3)。

研究方法及び材料

培養には肺線維芽細胞としてIMR-90 (CCL-186; ATCC) を、ヒト気道上皮細胞として Normal Human Bronchial Epithelial Cells (NHBE) (CC-2540S; Lonza) を用いました。
培養容器としては12 ウェルプレート (353503; BD Biosciences) とセルカルチャーインサート (353103; BD Biosciences) を用いました。
Cellmatrix Type I-A (Nitta Gelatin)、濃縮MEM ハンクス培養液 (Nitta Gelatin)、再構成用緩衝液 (Nitta Gelatin) を8:1:1 で混合し、インサートへ100 µL 添加しました。
37℃で1 時間ゲル化した後に、Cellmatrix type I-A、Cellmatrix Type I-P (Nitta Gelatin)、濃縮MEM ハンクス培養液、再構成用緩衝液、FBS に懸濁したIMR-90 (2.5 × 106 cell/mL) を4:4:1:1:1 で混合し、インサートへ250 μ L 重層した。37℃で1 時間ゲル化した後に、MEM 10% FBS をインサートに500 μL、ウェルに1 mL 添加して培養しました ( 図1a)。
2 日後に培地交換を行うとともに、Airway Epithelial Cell Growth Medium (Promocell) に懸濁したNHBE (3.0 × 105 cell/mL) をインサートに500 µL 添加した (図1b)。
NHBE がセミコンフルエント以上になった状態からALI 培養を開始した ( 図1c)。
ALI 培養にはPneumaCult-ALI Medium (ST-05001; STEMCELL Technologies)を用い、インストラクションに従い、Hydrocortisone (ST-07925; STEMCELL Technologies)、Heparin (ST-07980; STEMCELL Technologies) を加えました。

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図1

気管支3D 培養モデルの作製方法 

(a) 線維芽細胞を包埋したコラーゲン層の作製。

(b) 気管支上皮細胞の重層。

(c) 気液界面培養の実施。

(d) 気液界面培養3 週間後の分化状態。

また、30 nM GM6001 (Invitrogen)、1% FBS についても添加しました。
この培養液をウェルに>600 μL 添加して3 週間培養することで、気道上皮様の分化が観察された (図1d)。
培養液の交換は2–3 日おきに実施しました。
また、培養液にTransforming growth factor (TGF)- β1を添加してALI 培養することで線維症の誘導を行い、ALI 培養から3 週間後に組織を4% パラホルムアルデヒドで固定し、免疫染色により組織状態を観察しました。
抗体は全てAbcam 製を用いました; acetylated α -tubulin (ab24610)、MUC5AC (ab3649)、anti-cytokeratin 5 (ab52635)、E-cadherin (ab40772)、vimentin (ab92547)、α -smooth muscle actin (ab5694)、tenascin-C (ab108930)。

結論

気管支上皮細胞と線維芽細胞の共培養において、PneumaCult-ALI Medium を用いることで、実際の気管支組織と同様の構造をin vitroで再現することができました。またTGF- β1を用いた実験から、このモデルが適切な刺激下で線維症様の組織学的変化 (上皮間葉転換、筋線維芽細胞の集積、細胞外マトリックスの沈着) を呈する可能性が示されました。このことは、当該モデルが毒性評価や創薬開発に活用できる可能性を示しています。

参考文献

Ishikawa, Shinkichi, Kanae Ishimori, and Shigeaki Ito. "A 3D epithelial–mesenchymal co-culture model of human bronchial tissue recapitulates multiple features of airway tissue remodeling by TGF- β 1 treatment." Respiratory research 18.1 (2017): 195.

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