ラーニングコーナー
2020/10/26
ClonaCell™-HYと96-Well Plateを用いたハイブリドーマの選択とクローニング
- 用途別細胞培養
モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマの単離に必要な時間を短縮するための、半固形培地と96ウェルプレートを用いた手法をご紹介します。
背景
抗体産生ハイブリドーマの選択とクローニングのために用いられてきた従来の方法では、液体培地中での希釈ステップを何度も行わなくてはなりません。STEMCELL Technologies社では、ハイブリドーマの選択とクローニングを一緒におこなえるメチルセルロースベース培地、ClonaCell™-HY Medium Dをご提供しております。このシステムではモノクローナル抗体を産生するクローンが得られるまでの期間が19日までに短縮されています。半固形のClonaCell™-HY 培地を使用したクローニングの標準プロトコールに従い、融合細胞(例:リンパ球とミエローマ細胞の融合細胞など)をメチルセルロースベースの選択培地に懸濁し、直径 10 cmの培養プレートでインキュベートします。ハイブリドーマは増殖してコロニーを形成し、インキュベート10-14日後には半固形培地からそのコロニーを ピックアップする事ができます。選択した コロニーは96ウェルプレートに移して、培養上清で陽性クローンをスクリーニングする前に液体培地で培養します。
本稿では、半固形メチルセルロースベース培地(ClonaCell™-HY Medium D)と96ウェルプレートを用いて、スクリーニング前の大量のハイブリドーマコロニーの回収と増殖の手間を減らすことができる方法をご紹介します(以下に概略図)。ClonaCell™-HY Medium Dと懸濁した融合細胞は、96ウェルプレートに直接播種します。ハイブリドーマは粘性のある培地中で個々に増殖し、周囲の培地中に抗体を分泌します。半固形培地の外側には液体培地を添加して層が作られ、分泌された抗体はその液体培地中に拡散します。液体培地はその後回収して目的の抗体産生のスクリーニングに使用します。この手法を使うことにより、最初の段階でコロニーを回収して増殖させる手間を省いて抗体産生のチェックをおこなう事ができます。この方法によって抗体産生しないコロニーを選択して増殖させてしまう事はなくなり、相当な時間と労力を節約する事ができます(以下の比較表も参照)。
プロトコールは、手動でコロニー選択をおこなう際にスクリーニングの必要がないようにデザインされています。ClonaCell™ EasyPick instrument による自動コロニー選択システムには対応しておりません 。
プロトコール
ミエローマ細胞はバイアルを新しく融解し、細胞融合の予定日の前に少なくとも1週間培養したものを使用する事が推奨されています。ミエローマ細胞はマイコプラズマに感染していない事を確認してください。細胞は対数増殖期にあるものを使用する事が理想的です。
- 細胞融合をおこなう当日、ハイブリドーマ用半固形クローニング培地、ClonaCell™-HY Medium Dを2-8°Cに置き、オーバーナイトで融解します。培地の融解はウォーターバスではおこなわないで下さい。
- 10-80 x 106 cellsのハイブリドーマが得られるようミエローマ細胞とリンパ球の細胞融合をおこないます。
細胞融合プロトコールに関するさらに詳細な情報は、ClonaCell™-HY Technical Manual(英語マニュアル)をご参照ください。 - 融合した細胞をリカバリー培地、ClonaCell™-HY Medium C中、37°Cの加湿環境、CO2インキュベータのCO2濃度5%の条件下で16 – 24時間インキュベートします。
- 細胞融合の翌日、融解したMedium Dをよく振り混ぜてボトルの中身をよく攪拌し、37°Cになるまで温めます。
- 1ウェルあたり1個のコロニーとなるよう、1ウェルあたりに播種する細胞数を決定します。STEMCELL Technologies社では10,000 - 80,000 cells/well の範囲で播種される事をお勧めしております。もしも既に液体のHAT培地でのハイブリドーマ選択のご経験をお持ちの場合には、ウェルあたりに播種する細胞数をその時と同じにして半固形培地に播種してください。
- トータルでボリュームが10 mLとなるよう量を調整したMedium C に細胞を懸濁します。このとき、最終的にボリュームが10 mLを超えないようにする事が重要です。もしもサイトカインや成長因子をMedium Dに添加する予定がある場合には、それらを合わせてトータル10 mLになるようにして下さい。
- 10 mLの融合細胞懸濁液を90 mLのMedium Dに混合します。よく混合し、泡が液表面に上がってくるよう15分間静置します。
- マルチチャネルピペットと無菌ワイドボアピペットのチップを用いるか、またはリピートピペットと無菌シリンジを用いて、96ウェルプレートの各ウェルに60-80 μLのMedium Dを添加します。1ウェルあたりのボリュームに応じ、この操作により12-16枚のプレートに細胞を播種する事ができます。Medium Dは粘性の試薬であるため正確にピペッティングする事は難しいですが、各ウェルに正確に等量分配する事はこの場合重要ではありません。
- プレートを37°Cの加湿環境、CO2インキュベータのCO2濃度5%の条件下でインキュベートします。インキュベータはよく加湿し、過剰な水分蒸発が起こらないようにします。培地の脱水を防ぐために、プレートは滅菌水を入れて蓋を開けたペトリ皿と一緒にガス交換可能なプラスチックのコンテナに入れます(例:245 mm x 245 mm のSquare treated tissue culture dish、商品コード:ST-27140, ST-27141)。
- 8日間継続してインキュベートをおこなった後、ウェルにコロニーがあるかを目視または顕微鏡で確認し、コロニーが確認されたウェルの半固形培地の上に予め37℃に温めておいたハイブリドーマ増殖培地(ClonaCell™-HY Medium E)を150 μL添加します。もしくはコロニーの有無に関わらず(37℃に予め温めた)Medium Eを全てのウェルに150 μL添加して解析を全てのウェルについておこなうことも可能です。
- プレートを37°Cの加湿環境、CO2インキュベータのCO2濃度5%の条件下でさらに2−4日間インキュベートします。培地添加後にインキュベーションをすることによりコロニーが小さかったハイブリドーマも増殖して確認しやすくなります。
- 半固形培地中のコロニーを崩さないよう注意しながらMedium Eを最大100 μL除去します。除去した培養上清は抗体による抗原検出に適したアッセイシステムで解析し、目的の抗体についてのチェックをおこないます(例:ELISA、フローサイトメトリー、ウェスタンブロッティング)。
- 目的の抗体が検出されたウェルの内容物は穏やかに懸濁し、ハイブリドーマを増殖させるため1 mLのMedium Eが入った24 wellプレートに移します。コロニーが複数入ったウェルの場合には各コロニーを別々のウェルに回収してそれぞれ増殖させ、再チェックすることも可能です。もしも個々のコロニーを別個に回収する事が不可能な場合には、ハイブリドーマの回収直後またはMedium E中でリカバリーと増殖のための培養を1-2日間おこなった後にクローニングを再度おこなう必要があります。別個で回収できた陽性コロニーの場合はモノクローナルである可能性が高いため、再度のクローニングは必須ではありません。しかし、安定した抗体産生能が高いサブクローンを選択する場合にはクローニングを再度おこなう事は有効な手段です。
ハイブリドーマ作製プロトコールの所要時間比較
液体培地(従来法) | 所要時間(日)* | ClonaCell™-HY | 所要時間(日)* | ClonaCell™-HY 96ウェル法 |
所要時間(日)* |
細胞融合 | 1 | 細胞融合 | 1 | 細胞融合 | 1 |
限界希釈によるクローン選択とクローニング | 14 | 10 cm ディッシュを使用したクローン選択とクローニング | 10 - 14 | 96ウェルプレートを使用したクローン選択とクローニング | 8 |
スクリーニング | 1 | コロニー分離 | 1 | Medium Eの添加 | 2 - 4 |
限界希釈によるサブクローニング | 1 | 細胞増殖 | 1 | コロニーのスクリーニングと分離(モノクローナルハイブリドーマ) | 1 |
スクリーニング | 1 | スクリーニング | 1 | ||
合計日数 | 31 | 合計日数 | 15 – 21 | 合計日数 | 12 – 14 |
*想定される所要時間は作業のスケールによって変動します。安定し抗体産生能が高いハイブリドーマ細胞株を得るために、サブクローニングのプロトコールは(途中で中断をせずに)連続しておこなっていただく事が推奨されています
関連情報
- 動画マニュアル:「ClonaCell-HY」によるハイブリドーマのクローニング(96ウェルプレート編)
- ユーザーマニュアル:ClonaCell™-HY Technical Manual
- ClonaCell製品全般の紹介:「ClonaCell」CHO細胞株、ハイブリドーマをクローニングするための革新的なソリューション