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2023/02/28
iPS細胞の3D培養を始めませんか?
- 用途別細胞培養
大量培養の際の培地コスト、継代時の手間にお困りではありませんか?
実験から応用研究へ、またさらに多くのiPS細胞が必要となってくると課題となるのが、培地のコストや、継代時の基底膜からの剥離操作に熟練したスキルを持つ人員の確保です。 これらのアップスケールの一つの解決策としまして、STEMCELL Technologies社では2次元培養しているiPS細胞の3次元培養を提案いたします。
TeSR™-AOF 3D(ST-100-0720)は、未分化のヒト胚性幹(ES)細胞およびヒト人工多能性幹(iPS)細胞を、3次元浮遊培養で凝集体として増殖させスケールアップするために開発されました。新しい流加培養(fed-batch)ワークフローにより、所要時間と培地を節約できます。毎日の培地添加によって栄養素を補給するため、非継代日の培地交換は不要です。
TeSR™-AOF 3Dは、さまざまな浮遊培養容器に適合する、動物由来フリー(animal origin-free; AOF)の浮遊培養専用システムです。動物由来フリーとは、少なくとも製造の二次レベルまで動物またはヒトに由来する原材料を使用していないことを意味します。
◆動画のご紹介◆
ヒト多能性幹細胞(hPSC)の増殖を3D浮遊培養で行う原理から、実際に培養する際のポイントまで動画で学ぶことができる、約60分のオンデマンドトレーニングをご提供中です。On-Demand Expansion of hPSCs in 3D Suspension Culture Course
(動画の視聴にはSTEMCELL Technologies社ウェブサイトにて登録が必要です)
iPS細胞スケールアップのための3次元培養
ヒト多能性幹細胞(hPSC)のスケールアップを目的として、3次元浮遊培養系が開発されてきました。3次元浮遊培養では、2次元培養と比べて継代時のスクレーパーを使った細胞剥離操作などが不要なため、結果のばらつきや労力を減らすことが可能です(下図参照)。
しかしこの分野では、浮遊培養液の撹拌で生じる高いせん断ストレスにhPSCを予め馴化させることなく、再現性よく培養をスケールアップできないことが課題でした。その背景としては、培養液中で凝集体どうしを融合させず維持するため十分な撹拌速度が必要な一方で、シェアストレス感受性が非常に高いhPSCの増殖を阻害しないためにせん断力の発生を最小限に抑える必要があるという、非常に難しいバランスの取り方がありました。
本稿でご紹介する最新の「TeSR™-AOF 3D」培地は、従来の「mTeSR™3D」培地(2016年~)の高いコストパフォーマンスを受け継ぎつつ、さらに、臨床や細胞治療を見据えた応用研究にも適した "動物由来フリー" 組成を実現しました。「TeSR™-AOF 3D」は、hPSCを凝集体として3D浮遊培養し、2~3週間という短期間に109個を超える細胞を取得することができます。2Dから3D培養への移行時に馴化のステップを経ることなく迅速にスケールアップ可能で、さまざまな培養容器での撹拌条件も検証済みです。
大量に細胞を必要とする、動物実験、ラージスケールの分化、あるいはセルバンクを含むアプリケーションを実施するためのスケールアップに「TeSR™-AOF 3D」をご活用ください。
3次元浮遊培養方法の選択
hPSCの3次元浮遊培養で選択される、主な細胞培養方法および操作方式を比較しました。
細胞培養方法: マイクロキャリア vs 凝集体
概要 | 長所 | 短所 | |
マイクロキャリア | 細胞が微小なプラスチックビーズ表面に接着し、3Dシステム内に2Dを模倣 | 細胞が表面に接着したままで、2Dからの馴化が容易 | 細胞の剥離が困難 シングルセル継代には核型異常のリスクあり |
凝集体 | 細胞が互いに接着することで、凝集体として増殖 | 生理的な細胞相互作用があり、外部マトリックスが不要 | 継代方法で異なる: ・クランプ継代は新しい技術 ・シングルセル継代には核型異常のリスクあり |
操作方式: バッチ法 vs フェッドバッチ法
3次元浮遊培養における、バッチ法とフェッドバッチ法(流加培養)の手順を比較しました。
従来のバッチ法は、毎日の培地交換を必要とするため、高コストで、細胞に高いストレス負荷をかける方法と言えます。一方でフェッドバッチ法は、給餌と半量培地交換を採用することにより手間も培地使用量も削減でき、低コストで、より健全な細胞を得られる方法となっています。
動物由来原料不使用「TeSR-AOF 3D」培地のご紹介
TeSR™-AOF 3Dの特長
TeSR™-AOF 3Dは、hPSCを凝集体としてフェッドバッチ法で3次元浮遊培養するための培地で、以下の特長を備えております。
安全性: 二次製造レベルまで動物性原料不使用※ の培地を選ぶことで、補助材料選択におけるリスクを最小限に抑制
※ TeSR™-AOF 3Dの培地組成は "動物由来フリー(AOF)" です。従来のmTeSR™3Dは "無血清" です。
コスト削減: 培地の全量交換が不要な流加培養給餌方式によって、時間と労力を削減
馴化不要: 2次元培養からの馴化を必要とせず、高品質のhPSCを迅速にスケールアップ
その他の要件
TeSR™-AOF 3Dは、以下の条件をクリアするように設計されています。
- 毎日の持続的な細胞増殖
- 培養物の操作と破壊を最小限まで抑制
- 非酵素的剥離とろ過による継代
- 各継代終了時の細胞生存率 >85%
- 培養中に高いグルコース濃度と低い乳酸濃度を維持
- 5継代後の、未分化マーカー発現、多能性(3胚葉分化能)、核型安定性の維持
- 従来の2D培地比で、生産細胞当たりのコストを抑制
プロトコル概要
細胞は3日間/4日間の交互のスケジュールで継代する必要があります。迅速なスケールアップのため、4日間サイクルでの継代を連続で行い収量を最大化することもできます。すべての非継代日には給餌を行い、継代後2日間はフェッドバッチ方式でFeedサプリメントを添加します。4日間の継代時のみ、3日目に培地を半量交換します。すなわち、毎週1回の半量培地交換が必要になります。
さまざまな培養条件
各容量の培養容器を使用する場合の最適な撹拌速度を、下表のとおり検証済みです。
2Dから3Dに移行する際は、撹拌による物理的な力に細胞を順応させるため6ウェルプレート(オービタルシェーカー上で振盪)から開始することをお勧めします。
※クリックすると拡大して表示されます。
PBS-MINIバイオリアクターについて
水車型攪拌翼(Vertical-Wheel™ Impeller)で穏やかかつ効率的に撹拌することによって、発泡防止剤やせん断保護剤を使用せずにhPSCのようなせん断感受性の高い細胞の増殖を可能にします。サイズが均一なhPSC凝集体の培養に最適な低せん断の撹拌環境を作り出し、凝集体の回収も容易に行うことができます。小型で密閉性の高いベースユニット、および0.1Lと0.5LのPBS-MINI MAGシングルユースベッセルはインキュベーター内でも使用することができます。
スケールアップのワークフロー
hPSCを2D培養から3D培養にスケールアップする際の流れをまとめました。
3Dで増殖したhPSCは、分化、フローサイトメトリー、2D培養などに使用することができます。
※クリックすると拡大して表示されます。
効率の良いスケールアップのためには、高品質なhPSCからスタートすることが非常に重要です。
高品質なhPSCは、OCT4、TRA-1-60、SSEA-3を含む未分化状態のマーカーを高レベル(> 95%)に発現しています。また、正常なコロニー形態、低頻度の分化細胞、正常な増殖速度を有し、正常な核型を保持している必要があります。染色体異常や遺伝子異常は、いかなるin vitroシステムにおいても、長期継代中に出現する可能性があるため、hPSCの核型を5~10回継代毎にチェックすることを推奨します。hPSCで観察される最も一般的な核型異常を検出するための定期スクリーニングには、hPSC Genetic Analysis Kitをご利用いただけます。
hPSCの品質管理について、詳しくはこちら>>
分化培地の適合性について
TeSR™-AOF 3Dで培養したhPSCは、以下のSTEMdiff™培地で分化できることが確認されています。STEMdiff™分化培地の詳細は、こちら>>
- STEMdiff™ Trilineage Differentiation Kit (3胚葉分化 [品質管理用])
- STEMdiff™ Erythroid Kit (赤血球分化)
- STEMdiff™ Neural Crest Differentiation Kit (神経堤分化)
- STEMdiff™ SMADi Neural Induction Kit (神経誘導)
- STEMdiff™ Cardiomyocyte Kit (心筋分化)
- STEMdiff™ Megakaryocyte Kit (巨核球分化)
データで見る3次元培養
TeSR™-AOF 3DによるhPSCのスケールアップ
hPSC浮遊培養において、高い増殖能と生存率を維持します
培養したhPSCは未分化マーカーを発現し、3胚葉に分化できます
培養中のグルコースおよび乳酸の濃度を最適に維持します
複数のhPSC株にわたって、浮遊培養中の凝集体はhPSCの特徴的形態を示します
スケールアップ後の分化
TeSR™-AOF 3Dで浮遊培養後、hPSCを巨核球、赤血球を含む各種の細胞に分化できます
Figure 5. 浮遊培養における造血分化
(左)STEMdiff™ Megakaryocyte Kitをもちいて浮遊培養で巨核球(MK)分化した際の、最初の12日間のMK凝集体の形態変化、および最後の5日間の再播種したシングルセルの形態変化。(右)STEMdiff™ Erythroid Kitをもちいて浮遊培養で24日間培養した後のGlyA+CD71+赤芽球の頻度、および、hPSCあたり生成されたGlyA+赤芽球の個数。
詳しいデータは、以下をご参照ください。
TeSR-AOF 3Dの性能に関する学会発表ポスター
コンサルテーション・デモのご案内
現在、各種細胞の培養を検討中または実施中の方へ、STEMCELL Technologies社のサイエンティストが無料でコンサルテーションをいたします。
ご希望の際は申込フォームより必要事項をご記入ください。弊社スタッフよりご連絡いたします。
コンサルタント:下河内 晶子, PhD フィールド アプリケーション サイエンティスト 下河内さんは日本在住で、日本国内の研究者に向けて細胞培養の技術的アドバイスを提供します。 |