研究者の声
2025/10/03
ヒト生体環境を模倣した呼吸器ウイルス培養方法 研究者の声【46】
- 用途別細胞培養
- 細胞・生体試料
研究者紹介
白戸 憲也 先生
国立感染症研究所 呼吸器系ウイルス研究部 第2室
※ 所属や役職等は掲載当時のものです
研究内容
研究の背景
急性呼吸器感染症は世界中で小児の死因トップとなっており、多様な細菌、ウイルス、真菌などが原因となっている。分子生物学的検査手法の発展に伴い、急性呼吸器感染症の領域でも遺伝子検出法が多用されるようになり、1つの症例から同時に複数の病原体が検出されるようになった。また、遺伝子検出法は非常に高感度である一方で、低コピー陽性例における感染性病原体の存在など、検査陽性者と他者への感染性との関連等が問題視されるようになった。
これら複数同時陽性事例や、低コピー陽性例における感染性ウイルスの存在を調べるためには、ウイルス分離を行うことが一番であるが、問題は急性呼吸器ウイルスの分離方法であり、通常の株化培養細胞では分離できないウイルスも多く存在する。
そこで、本研究では呼吸器ウイルスに対して幅広い感受性をもつ、プライマリー気管・気管支上皮細胞(human bronchial/tracheal epithelial cells, HBTEC)の気液界面培養系(air-liquid interface, ALI)を用いてウイルスを用いて、これらの評価を行った。
方法・結果
培養条件
ウイルス:福島県内で小児入院患者から採取された呼吸器ウイルス鼻咽頭ぬぐい液
細胞: HBTEC(LIFELINE Cell Technology社、FC-0035)
維持培地: PneumaCult-EX(ST-05008)と PneumaCult-EX Plus(ST-05040)を 1:1 で混合
(※継代などの作業が土日にかからないよう増殖率を調整可能にするため)
気液界面(Air-Liquid Interface, ALI)培地:PneumaCult ALI Medium(ST-05001)
Transwell:Costar 6.5 mm Transwell, 0.4 μm Pore Polyester Membrane Inserts (ST-38024)
培養方法
1. 解凍した細胞を維持培地にて1週間培養後に1~1.5×105/wellに調整し、Transwellへ播種する。
2. Transwell播種した翌日にinsert上部(apical側)の培地を除去し、insert下部(basal側)の培地をPneumaCult-ALI Mediumへ交換した。
3. PneumaCult-ALI Medium の添付文書に従い培養を4週間行った。 (特に始めの1-2週目は毎日観察し、apical側に漏出を確認した際はそれを洗浄すること)
4. PT-PCRにて呼吸器ウイルス陽性が確認された鼻咽頭ぬぐい液をapical側に接種し、所定の期間培養した。
評価方法
ウイルス複製動態をRT-PCR法で確認
図1 ウイルス分離結果
主な結果
複製が確認された割合(249検体(単一感染122例、複数感染127例))
・単一感染:57.3%(70/122検体)
・複数感染:48.8%(62/127検体)
→ 単独陽性と複数陽性で増殖率に大きな差は確認できなかった。
特に、インフルエンザA型(Flu A)およびインフルエンザB型(Flu B)では平均より高い複製成功率が確認された。
複数感染の検体のうち16検体で複数種類ウイルスの同時複製を確認した。
そのうち4検体において複数回の継代においても複数種のウイルス増複製が確認された(図2:GenBankに登録済み)。
HBoV1(ヒトボカウイルス)、HRV(ライノウイルス)、ADV(アデノウイルス)の組み合わせが多くみられた。
図2
・数値はリアルタイムPCR値(Cp値)
N.D., not determined
結論
複数同時陽性例において、複数同時の陽性は決して検査コンタミ等ではなく、確かに感染性ウイルスが同時に存在する可能性があること、またHBTEC-ALI環境において、複数種のウイルスが安定して同時に存在することが可能であることが示された。
Microbiol Spectr. 2024 Jan 11;12(1):e0192023.
DOI: 10.1128/spectrum.01920-23. Epub 2023 Dec 5.
図は第65回日本臨床ウイルス学会での発表に使用したものを転用しています。
PneumaCult Ex, Ex-Plus, ALIを使用しての感想
数社試して、PneumaCultシリーズが一番安定してHBTEC-ALI系を展開できています。
今後の展望
急性呼吸器ウイルス研究において、単一の培養系でほとんどの急性呼吸器ウイルス種に感受性のあるHBTEC-ALI培養系は非常に有用なツールです。今後もHBTEC-ALI培養系を用いた急性呼吸器ウイルス「群」の研究を進めてまいります。
ご利用いただいた製品
商品コード | 商品名 | 梱包単位 |
---|---|---|
ST-05008 | PneumaCult Ex | 500 mL |
ST-05040 | PneumaCult Ex-Plus | 500 mL |
ST-05001 | PneumaCult ALI | 500 mL |
ST-38024 | Costar 6.5 mm Transwell, 0.4 μm Pore Polyester Membrane Inserts | 48 Inserts |